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平成13年9月18日

           動機、目的、メッセージ

 史上最大のテロで、アメリカでも日本でも「デジャ・ビュー」(既視感)という感想が飛び交っている。
  それはアメリカ人にとってはパールハーバー、日本人にとっては湾岸戦争の、ともに苦い思い出が突然目の前に再現されたということのようだ。

   しかし私は、数日考えていて、ふと「ピッグス湾事件だ!」と思い当たった。「なぜ?」と問われるだろうが、これは主として情報分析の問題意識からである。テクニカルなことをこの大事件に関する最初の話題にするのはちょっと気が引けるが、時間的に早く書いた方がいいと思われることを、先に持ってくるのだとご理解いただきたい。

 まず第1に、ピッグス湾事件との相似である。ケネディ大統領は就任してから前任者がCIAのキューバ侵攻作戦を承認していたことを知り、その詳細を知らぬまま放置していた。
 それが実行されたとき、侵攻軍は思わぬキューバ側の善戦に手こずり、計画が初めから齟齬を来したことにあわてた。キューバは諜報で知っていたのだ。未熟なケネディは後続部隊を送ることを拒否し、無惨な敗北を喫してしまった。
 この失敗がダイレクトにソ連のキューバ支援強化を招き、あの有名なキューバ危機を呼び込むことになる。最近でも映画「13Days」ができるほど、人類最初の核戦争に限りなく近づいた唯一の経験として、この事件を米国民は忘れることができない。

 さて今回のテロは、情報が小出しにされているが、2機はホワイトハウスを狙ったもので、どうやら戦闘機に迎撃されて墜落したとみられる。ペンタゴンに激突したとされている1機は、発砲されたか前方を妨げられ、大きく旋回して上空からはっきりと視認できる巨大なペンタゴン(5角形)に、なんとかカスることができたということらしい。

 さらに分かってきたことは、アメリカ側が数年来、ビンラーディン容疑者を追い続け、何度も取り逃がした末、とうとう最近になって居所を掴み、パキスタン情報部と協力して抹殺する寸前になっていたらしいということである。

 これはブッシュ大統領が就任後、前任者が暗殺許可を含む諜報作戦(Covert Operation)をやらせていたことを聞いたが、その全貌を十分知らされていなかったのではないかという疑いと重なってくる。

 本来、イスラエルにたいして極めて甘かったクリントン大統領が、今日のビンラーディン組織を生み出してきたと言っていいのだから、狙われるべきは前任者だったはずだ。ブッシュ Jr.は内心、怒り狂っているに違いない。「俺はケネディの二の舞か?」と、自国の情報機関の無能ぶりに頭を抱えているだろう。

 ここで、ブッシュがホワイトハウスを留守にしていたことを、どう理解したらいいだろうか?
 テロの計画者は、それでもいいと考えたのではないだろうか。あるいは留守だと知っていたのかもしれない。この疑問は、1986年4月15日の米軍によるリビア爆撃を思い起こすと、なるほどと解けてくるだろう。

 あの攻撃は150機もの爆撃機、戦闘機などを動員した大規模な作戦だったが、真の目的はカダフィ元首の寝室を直接狙って暗殺することだったと言われる。ただし、その寝室にカダフィが「たまたま」寝ていなくて、砂漠のテントに行っていたというところがミソである。
 アメリカは、わざと討ち漏らして、何らかのメッセージを彼に送ることができたのである。そのあと、カダフィは目に見えておとなしくなり、欧米を悩ませてきた「国家テロ」は激減した。

 今回のホワイトハウス体当たり未遂は、仮に既遂だったとしても大統領はいなかった。しかし、ブッシュはカダフィに送られたと同じメッセージを受け取ったのではないだろうか。

 第2は、世界貿易センター攻撃についてである。これにもちゃんとメッセージが込められていると見るべきだ。このビルは93年に次いで、2度目の攻撃を受けて壊滅したのである。このしつこさは何を意味するのか。

 前回の爆弾テロでは、犯人グループが多数逮捕されていて、首謀者とされる米国在住者アブドル・ラーマン師が終身刑を宣告され、連邦刑務所に収監されている。そのときも今回も、あのビルへの攻撃にこだわっているのは、やはりユダヤ系の金融機関が多数入居しているからだと考えるのが自然であろう。単にニューヨークの象徴とか経済の中心というなら、自由の女神像や、証券取引所を狙うだろう。

 前回93年のテロのときも同じだが、今回はもっと直接的な理由があったのではないかと思われる。それは、テログループが遙かに進んだ投資技術を持ち、資金づくりにハイテクを駆使して世界的に活動しているという事実である。
 アメリカ政府は資金源を断つことが重要だと考え、先進国サミットの場などでも公然と、テロ組織へのカネの流れを監視するよう呼びかけている。

 ということは、そういう政府の要請を実際に受けて行動するのは大手の金融機関、なかでも投資銀行と呼ばれる一群のマネー集団ということになる。これら特定の企業の集まるビルが、特別に狙われるのは当然ではないだろうか。しかも、それらの大半はユダヤ系と見られているのだから、何をかいわんやである。
 「よけいなことをするなよ!」というメッセージを感じ取った金融機関幹部も多いのではないだろうか。国際的かつ大規模なテロが、ただ頭のおかしい人々によって実行されると思うのは、よほどおめでたい人であろう。

 さらに付け加えれば、あらかじめこのビルへの体当たり攻撃が行われると分かっていれば、カラ売りで確実に儲けられることも当然である。エアライン、保険会社、特定銀行・証券など、特に株価の下がる業種・企業まで予想できるのだ。ビンラーディンならばこれを無視するとは思えない。

 つまり、動機、目的、メッセージをきちんと読みとれば、いたずらに恐怖感を煽られることもなくなる。日本も標的だ、次は原発だ、テーマパークも危ないなどという無責任な扇動に惑わされることもなくなるのである。(01/09/18)


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