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平成13年12月15日

         ビンラディン・ビデオの謎は?

 前回「21世紀型戦争 vs. 18世紀型戦争」から約1ヶ月、ようやく次の山場にさしかかったようだ。
 ビンラディンのビデオは11月9日という日付があるらしいが、それを同月下旬に米側が入手したという、その経路がいちばんのポイントであろう。

 この情勢分析シリーズの流れでは、初めからビンラディンが一連の対米テロの総帥であり、彼自身は対米戦争を遂行しているという認識でやっているものとみている。したがって、ビデオの真贋や、証拠能力などを分析してもほとんど意味はない。むしろ、ビデオがどのようにして米側にわたったのかを推測する方が意味があるだろう。
 つまりポイントは、ビンラディンの側近に米側のスパイがいたと考えるべきである。米側ということは、英国かもしれないし、パキスタン、あるいはイスラエルが送り込んだのかもしれない。ビデオの内容の重大さが分かる人物で、オリジナルかダビングしたものを進撃してきたCIA要員か特殊部隊に渡したにちがいない。

 受け取った要員も内容の分かる人物だったから、ビデオはすぐワシントンまで運ばれた。(さすが情報の世界!)
 さて、改めてビデオを見た大統領側近たちは頭を抱えただろうと思われる。これが敵の謀略かどうか、あるいは同盟側の誰かの隠された思惑に乗せられることになりはしないか。自分たちが情報操作の得意なアングロサクソンであるから余計、逆の謀略を警戒したに違いない。
 それで迷っている内に、ビデオの存在が次第に漏れてしまい、こんどは隠し通すことが難しくなってしまった。それで仕方なく、隠すことのマイナスを避けて、なるべくオリジナルのまま(順序は変えた)公表するに至ったということのようだ。

 たまたまかどうか、ビンラディン追討作戦が大詰めとなり、いつ抹殺するか時間の問題になったため、その寸前に犯行の証拠を公表するのは好都合だったということもあるだろう。
 ここで前回の繰り返しになるが、地元の反タリバン勢力が本気で追いつめているわけではない。ほとんど砲撃しているだけである。アルカイダ兵と白兵戦をやっている形跡はみられない。そこでとうとう米軍兵士が前線まで出てきて督戦している映像が見られるようになってきた。

 米政府はできればアフガン人によってビンラディンを討ち取ってもらいたい、と今でも期待しているだろう。なぜならアフガニスタンを乗っ取っていた外国人テロリストをアフガン人自身が殺して、国を取り戻したという形がいちばん望ましいからである。
 そういう形であれば、その後の報復テロに大義名分がなくなるが、もし米軍が討ち取れば、米国民は満足してもあとの混乱が予測がつかないことになる。

 米政府はそう考えて地元反タリバン勢力(軍閥)に多額の懸賞金をぶら下げて、今まで戦わせてきたわけである。しかし、ごく直近、米特殊部隊と海兵隊の狙撃手が前線に出ていることを示唆したので、最後の詰めはやはり米軍が自分の手でやるしかないと、踏み切ったのではないかとみていた。その矢先のビデオ公表だった。

 つまり、地元軍閥の18世紀型戦闘スタイルでは、めざす相手を取り逃がす可能性が大きいと踏んだのだと思われる。実際、まだ、数日あるいは数週間、取り逃がすこともあり得るだろう。ただし、生きて捕らえるつもりは誰にもないと言えよう。

   後回しになったが、ビデオが真正だと認めているわけではない。映像などどうにでもなるというのが常識だし、アメリカはそうした情報操作(Disinformation)が大好きな国でもある。湾岸危機当時の原油まみれの水鳥、クウェート人少女のニセ議会証言などすぐ思い出せるくらいだ。
 「ワグ・ザ・ドッグ」という映画では大統領のセックススキャンダルから目を逸らさせるため、アルバニアで内戦が勃発したという証拠の映像をスタジオででっち上げるシーンが出てくる。クリントン大統領のモニカ・スキャンダルとコソボ介入を先取りした内容だと評判になった作品である。ぜひお勧めしたい。

 ビンラディン・ビデオの注目点は翻訳にある。アラビア語は通訳も翻訳も難しい。だからコーランは初めから翻訳を禁じている。開祖ムハンマドは頭がよかった!
 特に時制と単複が日本語よりもっとあいまいで、前後の文脈から判断するしかない点が、ビデオの公表を極めて政治的にしていると思われる。何を、いつ、知ったのかということが犯行の証拠とされるのだから、これはアラビア語の本質的問題と相容れないとも言えるのである。現に、翻訳した英語の4割ほどは前後の文脈から類推したものということだから、真贋を問うのはほとんど意味がないと冒頭で述べたわけである。(01/12/15)


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