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平成14年3月18日

       北方領土を取り返すには?(ムネオ疑惑の続き)

 日本人の多くが感じていることだと思うが、北方領土をロシアが返さないのは日本に力がないからである。
 そろそろあきらめて、「返還要求を撤回して経済的利益を追求する方が国益にかなう」と考える地元政治家が出てきても不思議はない。

 しかしもう一つ、「では力のある人に交渉してもらおう」という考え方が出てきてもいいのではないだろうか?

 いうまでもなく、アメリカのことである。それもブッシュさん(son)というレーガン以来のこわもて大統領がいるうちがチャンスだ。
 アメリカに全面的に交渉を委託して、ロシアに圧力をかけ、北方領土を日本に返すようにしてもらうのは非現実的だろうか?

 もともと北方領土をソ連に渡してしまったのは、アメリカの外交的失敗だった。「成人病のデパート」で判断力をなくしたルーズベルト大統領が、ヤルタ会談でスターリンに赤子の如くひねられてしまったことはよく知られている。
 しかし、そのことをもって、アメリカの責任だから今その失敗を償えというのは言い過ぎである。なぜならば、終戦時にスターリンが北海道の北半分を占領させろと要求した際、トルーマンはきっぱりと拒否してルーズベルトの失敗を償ったからだ。

 そうした経緯とは切り離して、いまロシアを「説得」しうる実力を持った国がアメリカだけだ、という客観的状況を最大限に活用したらどうだろうかという考えである。

 10年ちょっと前、冷戦構造が崩壊したとき、岡崎久彦氏が「ソ連に北方領土を返せと正面から要求すればいい。日本は戦争に負けて領土を取られたが今度は冷戦に勝った側で、ソ連は負けたんだから」と一刀両断されたことを記憶している。これほど胸のすくような正論はなかった(最近は少し寂しい)。
 私も同じころ、朝日「論壇」に「国連の安保理常任理事国の座を当然のようににロシアに継承させるべきでない」と書いたら、すぐ石原慎太郎事務所から電話がかかってきたので、さすがと感心したことがある。

 残念ながら「失われた10年」のために、日本が単独でロシアに領土を返せと迫る交渉力は却って低下してしまった感が強い。その間、対称的にアメリカは軍事力と非軍事的影響力の両方にまたがる支配力を持った世界帝国にのし上がった。
 ロシアのみならず、いわゆる「邪悪な枢軸」(Evil とは悪魔のイメージ)と名指されるのを避けたい国にとっては、アメリカのどんな無理にも従うことが国益だという時代になっている。これほど強力なネゴシエーターが出現した時代は歴史になかったのではないだろうか。

 だから、アメリカにやってもらうのである。
 もちろん我が国は、ネゴシエーターの米国とロシアの双方に、相当の対価を支払わなくてはならない。どのくらいが「相当」か?

 アメリカには当面、イラク攻撃を率先して支持すると表明し、イージス艦の派遣はもとより海上作戦行動には全面的に参加することを約束することになろう。集団的自衛権? あったり前でしょう?!
 憲法改正のスケジュール提示を要求されるかもしれない。沖縄の基地問題が棚上げされることになるかもしれない。

 それらはみな同盟国の間の交渉ごとになる。ロシアとの交渉とどちらがいいかを考えれば、自ずと答えは出てくるはずだ。
 ロシアへの対価は、米国と協調して決定すればいいのだから、とても呑めないような要求がネゴシエーターから突きつけられることはない。

 幸いにして小泉さんはブッシュ大統領とウマが合うらしい。個人的な親交を売り物にするなら、それを外交的成果に結びつけるのが政治家というものであろう。
 外交家といわれるような政治家がいなくなって久しい。小泉さんが「ヤッパただの反郵政族だった」と言われて終わるかどうかの瀬戸際にさしかかったいま、ブッシュ・コネクションを一世一代の大外交に使ってはどうでしょうか?(02/03/18)


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