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平成14年4月15日

      危機管理を阻害する銃器オンチ

 今月6日ごろ報道された話題だが、全国28都道府県の警察と新設の総理官邸警備隊にサブマシンガン(ふつうSMGと略す)が配備されたという。総数1,379丁だそうだ。

 この発表はサッカー世界大会のフーリガン対策などにテロ対策を重ね合わせ、国民が抵抗なく受け入れられるような時期を選んだものと思われる。
 世界一安全な先進国だった日本にも、犯罪大国と同じような警備体制と装備が必要になってきたことは、事実として受け入れなければならないであろう。犯罪自体もますます国際的になってきている。

 その発表で驚いたことが一つある。それは配備したドイツ製「MP5」の装備名がなんと「機関拳銃」だったことだ。
 「機関拳銃? それじゃマシーン・ピストルのことだ!」と飛び上がったマニアも多かっただろう。サブマシンガンは日本で何の疑問もなく「短機関銃」と訳されているはずだ。

 そう、国際的にSMGとマシーン・ピストルは区別されている。特に「MP5」は評価が高く、各国の警備当局の標準装備といえるほど広く普及している。これをマシーン・ピストルと間違える専門家は一人もいないだろう。

 「マシーン・ピストル」は片手で撃てるSMGといってもいいが、片手でフルオートで撃って当たるはずがない。きわめて危険な小型機関銃である。市販を禁じている国がほとんどだから、手にするのは犯罪者のみということになる。ジョン・ウェインが映画で振り回した「Mac 10」(米イングラム社製)のほか、欧州メーカーのマニア向けなど数種類しか公表された製品はない。

 つまり世界の常識では、マシーン・ピストルは犯罪者のイメージの武器である。それを日本は警察の武器として定義したことになる。

 なぜそんなおかしなことをするのだろうか。おそらくSMGとか短機関銃より軽い「拳銃」という漢字を使うことにより、1格下の武器だというイメージを国民に与えようとしたのだろう。(同じ姑息な呼び名を自衛隊も使用したことがあるという)。

 日本の警備当局が国際的に協同して動くとき、ホントに「うちの部隊はマシーン・ピストルを××丁持って、、」などと英語で打ち合わせをすることになるのだろうか。相手は混乱してしまう。いい恥さらしである。

 日本では軍事、兵器、武器などに関することはすべて平和に反することとして退けられ、一般に目を背ける傾向が強い。特に銃器に対してはアレルギーが強く、警察でさえその風潮をさらに助長して銃器を国民から遠ざけようとする。
 それは犯罪を予防するという目的に合致する要素も確かにあるが、同時に銃器に対する知識が日本人には欠けてしまう危険性を伴う。海外で撃たれる危険性も高くなる。

 銃器に対する知識の欠如は危機管理の基礎知識がないということを意味する。そのことを日本人の何パーセントが理解しているだろうか?

 いい例が96年のペルー日本大使公邸占拠事件である。
 あの事件発生の直後、青木大使が武装ゲリラの監視下でNHKの電話に応えた場面が繰り返し放送された。「ゲリラは銃を持っていますか?」という問いに答えて大使は、「ああ、持ってるぞ、すごいのを持っている」と答えるのみだった。

 私はがっくりした。いまペルー当局や日本側、いや世界中の警備当局がいちばん知りたがっている情報が何であり、それをどうやって伝えるかという基本的なことさえ、この大使は全くわかっていなかったのである。

 ゲリラが見張っているのだから正式名称を言ってはならない。「あの共産圏でよく使われているやつが××個」と言えば、軍用AK47自動小銃のたぐいが何丁と分かる。「戦車を撃つやつもある」と言えば対戦車ロケット砲、いわゆるバズーカだと分かる。
 そうやって敵の装備をなるべく正確に外部に伝えたならば、当局はすぐに作戦を立てることが可能になる。

 日本の大使はそんな基礎知識すら持ち合わせていなかったのだ。おそらく主要な武器を識別する訓練さえ受けていないだろうと思われる。

 剣道だって相手の構えを見れば、おおよその腕前は分かる。ゲリラであれ何であれ、持っている武器とその構え方を見れば、どの程度の敵かは見当つくはずだ。それが基本である。

 危機管理の基本はまず情報だ。これだけ爆弾テロ、銃器犯罪が増えている時代に、日本人だけが逆にそのハードに対する知識をマイナスにしていくというのは「いかがなものだろうか」(政治家の常套句)?

 「機関拳銃」という珍装備名は、そのことを端的に示してくれている。

 ついでになるが、いまや世界の警備当局や特殊部隊の標準装備となったSMG「MP5」シリーズが最初に登場したのはなんと1965年だった。まだ西ドイツの時代である。日本では60年安保の直後ということになる。何という違いだろうか。(02/03/15)


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