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平成14年5月20日

       百パーセント悪くても逆に攻撃する中国式論理とは?

 瀋陽(旧奉天)の亡命阻止事件がどう展開するかは、場所が中国内なので中国がどのように考えて行動するかがポイントである。それには手がかりがある。昨年4月1日の米中軍用機接触事件がそっくりなのだが、なぜかそういう報道や論評が未だに見られない。

 あの接触事件も今回の「外国公館不可侵権」侵害事件も、責任は百パーセント中国側にある。そしてその実行者はいずれも軍の一員だった。前者では空軍パイロット、後者では軍の下部機構である武警(普通の民警とは別組織)だ。

 空軍のハネ返りパイロットがジェット戦闘機でプロペラ機のEP3電子偵察機に挑発を繰り返し、接触して墜落したという誰が見ても馬鹿な暴走族に責任があることは明白なのに、中国政府はその責任をそっくりアメリカ側に負わせようとした。
 それが可能だと思わせた理由は、米偵察機が海南島に緊急着陸したため人質が手に入ったからである。

 同じように今回、日本総領事館に入って5人の亡命希望者を拉致したことは武警側の国際法、国際慣例無視であることは明々白々なのに、その事実さえ認めず、日本側を保護するためとか、日本側の同意があった、感謝されたというようにどんどん日本側に責任を転嫁している。
 それが可能だと思わせている理由は、5人を人質に押さえているからである。

 つまり中国の論理でいえば、海南島に降りてきたマヌケな米偵察機と24名の乗員は、中国の責任百パーセントをそっくり相手の責任百パーセントに転嫁する大きなテコ以外の何ものでもなかった。

 今回の亡命希望者5人も中国はそっくり同じテコと見ているにちがいない。彼らを手元にとどめておいて、中国は日本に逆に要求を突きつける。日本の方が謝罪する。中国はそれを受け入れて日本を「許す」。

 米政府はパウエル国務長官の書簡、ブッシュ大統領の遺憾表明などを数回重ね、中国政府の要求はだんだんエスカレートした。「regret」ではダメ、「sorry」では不十分だとされ、アメリカは偵察機が中国の領空を侵犯して海南島に着陸したことを認め(原因はどっちがつくった?)、遺憾の意を表するまで譲歩させられた。

 最後は4月11日、米大使が書簡で領空侵犯とパイロットの行方不明に対し、very sorry を2回、regret を1回繰り返し、それも英文のみで翻訳しないという玉虫色の合意に達した。もちろん中国政府は国内向けに「アメリカが事件全体の責任を認めて謝罪した」と宣伝した。
 その後も偵察機の現場での修理は拒否され、解体して巨大貨物機で運び出したが、中国政府はさらに迷惑料百万ドルの請求書を突きつけたという。それがあの事件の結末だった。

 接触の責任が中国側にあるのに、その結果として緊急着陸したことをとがめて攻撃し、謝罪させるというテクニックを使っている点に注目すべきだろう。今回も、武警の侵入と拉致を棚に上げて、その後の日本側の対応に論点を移し、非難し続ける論法が全く同じである。

 このテクニックが分かると、日本側がどう対応すればいいかも見えてくるだろう。
 すなわち、向こう側の手にある人質を少しでも早く解放させ、テコを失わせることだ。幸い今回は現場ビデオが公開されているので、いつまでも5人を隠してはおけない。それが日本側の強みである。早く5人を解放させることに全力を注ぐべきだ。

 そのあと、日本政府はビデオに映っている国際法違反の現実に対してだけ、執拗に粘り強く抗議し、謝罪を求めることだ。論点のすり替えには決して応じないようにすればいい。そして謝罪は英文で受け取ること。それを見て日本政府が「許す」と宣言する。英文の文書を世界に公表する。

   この事件に関して、国際社会で日本が認められる道はそれしかない。

 もっとも、「決して責任を認めない中国人」は彼の国と取引経験のあるビジネスマンや、彼の国の人を雇用したことのある経営者諸氏にはとっくに常識だと思うが、いかがだろうか。(02/05/20)


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