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平成14年10月5日

        (続・9/17ショックの読み方)
       リストの一部は対米メッセージと判明

 北朝鮮が小泉首相に示した拉致被害者リストのうち、1人については対米メッセージだったことが明らかになった。

 リストの一人一人について日本側が要求していない死亡年月日を添えた理由や、日本側でそれまで全く知られていなかった佐渡の女性を、北側が自発的に生存者としてリストアップしてきたことの意味は何なんだろうかと、非常に疑問に思ったものだ。

 当初、外務省を始め日本側では、北朝鮮が「誠意」を印象づける演出として、日本側でノーマークの人物を含めてきたのだろうと受け止めた。しかし、外務省が改めて調査団を派遣した結果、なんとこの女性は存在が知られている元アメリカ兵と結婚して大学生の娘2人がいることが分かった。

 やはりあのリストには隠されたメッセージが込められていたのである。小泉訪朝のあとすぐにアメリカのケリー特使が行くことになっていた。クリントン大統領が現職末期に行くはずだったのがお流れになって以来、ずっと空白だった米朝交渉の再開が期待されていた。

 それにぶつけて北側は、在朝の元米兵が政府の庇護の下で幸せに暮らしているぞという事実を知らせてみせたのである。

 60年代前半に何らかの理由で休戦ラインを越えて北に入った米兵が4人いるといわれるが、米政府は政治亡命でなく脱走(ベトナム行きを忌避)と認定している。うち1人はのちに北朝鮮の国威発揚映画に米軍兵士役で出演していることが分かった。この人が再び姿を現したわけだ。肝心なところに出てくる役割らしい。

 また、レバノンから騙されて北朝鮮に連れて行かれたレバノン女性4人は、この米兵たちと結婚させるためだったことが明らかになっている。

 今回、北が佐渡の女性の存在を明らかにしてきたことは、決して「誠意」などというものではなかった。逆に冷酷にも米兵の結婚相手として「あてがった」ということを世界中に知らせたことになる。それもアメリカ政府に対して恩を着せるジェスチャーとして、日本国民の感情など全く考慮せずに、ただ小泉訪朝を利用したわけである。

 それだけではない。その目的のためには、一緒に拉致した母親のことを完全に無視するという態度を貫いている。この非情さは特筆に値する。

 ここから先はさらに書きにくい。もし拉致か亡命か逃亡の元米兵が女性のパートナーを望んだとする(当然だが)。その場合、同じアメリカ人の女性を「都合」することをまず考えるのが自然だ。しかし、すぐ断念するだろう。
 なぜならば、自国民が拉致されたと知ったアメリカは決して黙っていないからだ。

 「風とライオン」という映画がある(ショーン・コネリー主演、75年)。この作品のことを石原慎太郎・都知事が何度か引き合いに出している。ストーリーは20世紀初頭、モロッコでアメリカ人の母と子供2人がベドウィン(遊牧民)の族長に誘拐されるが、時の大統領セオドア・ルーズベルトが海軍を派遣して遠慮なく実力で取り戻すというものだ。

 アメリカならやりかねない。北朝鮮に対してなら遠慮も何もいらない。現在ならよけいそうだろう。イラクを放っておいて北朝鮮攻撃を先にやるだろう。そういう恐れがあるから20年前だってアメリカ女性を拉致しようとは考えなかったに違いない。
 レバノン女性に目を付けたのはたぶん国として弱体だからと判断したのかもしれないが、実際にはパレスチナ左派勢力からの強烈な抗議を受けて出国させる羽目になった。
 残る選択肢は日本女性だということだったのだろう。日本には何をしても抗議すらこない。逆にコメとカネを送ってくる。こんないい相手は他にいない。日本女性なら米人男性も満足する。
 今度はそのカードをアメリカに対してさえ使おうとした。3日に平壌入りしたケリー特使一行に対し、北側はこのカップルと他の3人(?)の米兵が特別待遇で幸せに暮らしていると説明していることだろう。

 地球規模の反テロムードの中で、米軍兵士を拉致してそのまま抑留しているという理由付けをされたら最後、本当に軍事攻撃を受けかねないと判断したのだと思われる。
そのための予防手段として日本が使われた。

 たった1人のリスト追加だけでもそういう謎解きができるのである。あのリストにはまだまだ多くのメッセージが隠されているはずだ。(02/10/05)


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