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平成14年10月27日

        拉致被害者家族の会にノーベル平和賞を!

 北朝鮮が4日、ケリー特使に対し「核開発を続けている」と認めた。日本人拉致を認めたのと同じ発想の新戦略であることはまちがいない。

 アメリカが対イラク戦争の準備で手一杯だと見て、いまなら開き直って強い立場をとることができると踏んだのだろう。対応に手間取ったアメリカに対し、たたみかけるように「相互不可侵条約」と「核兵器の先手不使用」を提案した。新しい心理戦争を仕掛けてきたことは明らかだ。

 こういう新しい戦争は日本にとって初めてである。アメリカの新しい戦争(対テロ戦争)という概念も、日本人にとって当事者感覚は薄弱であろう。まして北朝鮮が拉致を認め、生存者5人を(一時的にでも)日本に返すのに同意したのが手ごわい心理戦争なのだという認識を、何パーセントの国民が持っているだろうか?

 小泉訪朝の見返りに渡された拉致被害者リストの読み方がだんだん分かってきた。重要なポイントは「結婚」である。

 北の言い分は「拉致したことは被害者本人たちに謝罪し、彼らもそれをとうに受け入れ、そのあとは特別に厚遇され、結婚も世話されて幸せに暮らしてきた。子供も立派にエリートとして育っている」ということになる。

 金正日が小泉首相に対して謝罪したのは拉致の事実であって、それは後段の厚遇とチャラになるという意味だったのだろう。そこに「結婚」という要素が大きく作用する。

 蓮池夫妻、地村夫妻についてはまさにその論法が当てはまるケースである。曽我ひとみさんの場合は、結婚相手が元米軍兵士であるため単純ではないが、日本向け、かつアメリカ向けの宣伝ケースとして見れば、なぜ北が積極的に明るみに出してきたのかという理由はよく分かる。

 それは元米兵4人の結婚相手として連れてこられたレバノン女性4人のうち1人が、解放され帰国したあと自分の意志で北朝鮮に戻り、結婚生活を全うしたという例があるからだ。

 曽我ひとみさんも拉致から結婚に至る経緯が不自然であることは論を待たないが、結果として必ずしも不幸せではない家庭を築いてきたように見受けられる。そこがポイントであろう。

 北側はこの3組の家庭を「将軍様の特別のご配慮」のショーケースとして提示したのだ。もし日本側が永住帰国にこだわって家庭を破壊したりすれば、日本の方がよっぽど人道に反する国ではないかと非難するつもりだろう。

 北が用意した陥穽がこれである。
 もう一つ、北が仕組んだ大きな罠が横田めぐみさんの「結婚」である。

   北朝鮮では自国民と外国人の結婚は事実上ありえない。だからこそ元米軍兵士にも外国人の配偶者を与えようとし、そのための拉致を実行した。よど号ハイジャックの容疑者たちも、なんとか日本人の配偶者を得ようとして自前で拉致を実行せざるを得なかった。

 だからめぐみさんが北朝鮮人と結婚して娘を生んでいたというのは、いかにも不自然なのである。13歳で拉致され、成人するころには日本語を忘れていたであろうから、工作員学校の日本語教官をしていたという情報も不自然なところがある。

 しかし、情報機関の閉鎖された集落で、他の拉致被害者と娘ともども面識があった以上、めぐみさん母子の存在事実を消してしまうこともできない。そこで、まぼろしの「夫」と結婚していたことにする。「夫」はめぐみさんに愛情を注いだが、めぐみさんはそれに十分にこたえることなく、幼い子供を残して自殺したということにする。

 残された娘は父と後妻の愛情に包まれてすくすくと育ち、それはすべて「将軍様の大きな愛のおかげ」ということになる。
 あとのシナリオはこうだ。祖父母に当たる横田滋さん夫妻が北朝鮮を訪ねたとする。「夫」と称する人物が現れ、自分が如何にめぐみさんを愛し、幸せな結婚生活を送っていたかを語る。それに対して、滋さん夫妻は日本流にいえば「めぐみが迷惑をかけて申し訳なかった」と頭を下げることになる。

 つまり、滋さん夫妻が陳謝し、それを金正日が寛大に許すという図式を想定しているのではないだろうか。拉致を認めながら「将軍様」には傷が付かないという手品であり、そのタネは「結婚」なのであり、その結婚には事実とマヤカシ(イメージの錯誤)の両方があるということである。

 そういう北の心理作戦にまんまと乗せられたテレビの「キム・ヘギョン」独占インタビューなるものを見ているうち、語られないことがいくつか見えてきた。
 めぐみさんと娘さんの生活に「夫」がいなかったらしいこと、お葬式がなかったらしいこと(結婚がなかったことの証拠)、後妻とも父とも一緒に住んでいないらしいこと(誰とどこに住んでいるのか疑問)、父母・祖父母を大事にする国なのに滋さん夫妻に来朝するよう繰り返す涙、涙。

 横田滋さん夫妻の心情を思うと、それこそ涙、涙である。ご夫妻が代表を務める家族の会にぜひ、来年度のノーベル平和賞を差し上げたい。それだけの業績は立派に証明されたと思う。日本政府も本気で動いてほしいものだ。外務省の一部官僚は相変わらず北朝鮮のご機嫌を損なわないことを第一に考えているように見える。その疑いを一掃するためにも、正式名称「北朝鮮による拉致」被害者家族連絡会、へのノーベル平和賞授賞を働きかけてほしい。(02/10/27)


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