top.gif
title.jpg

平成14年12月7日

         イージス艦派遣の裏にある本当の要求は?

 インド洋海域に日本のイージス艦が派遣されることになった。突然の「決定」がなぜ1年前にはできず、今になって行われたのだろうか?

 集団的自衛権の行使に踏み込むのかというような神学論争が問題なのではない。安全保障問題でアメリカが具体的な要求をしたとき、日本は必ずはぐらかして、要求とは違うことでいかにも答えたようにみせかける。これが日本の常套手段だから、「なぜイージス艦が必要か」ではなく、アメリカの本当の要求は何なのかということを考えるほうが大事なのである。

 昨年のアフガニスタン攻撃に際して、アメリカは明示的に日本の軍事的貢献を期待し、その象徴として米軍と一体運用が可能なイージス艦の派遣を求めてきた。しかし日本政府はそれには答えず、「補給艦を派遣して米英艦艇に燃料補給してあげますよ」と返事した。
 かくて無料の「海上ガソリンスタンド」が出現したわけだが、アメリカがそんなことを要求したのでないことは明らかだった。

 91年の湾岸戦争の時、日本はやはり自衛隊の派遣を求められ、全く不可能だとして代わりに戦費の負担を申し出た。
 当時のドルで最終的に130億ドル、円にすると1兆5千億円ともいわれる巨額の「拠出」を余儀なくされ、それでもちっとも感謝されず、クウェートの感謝広告に日本の名が記されなかったという悔しさはまだ記憶に新しい。

 それで結局、日本は事後的に掃海艇をガルフ(ペルシャ湾)内まで送り込み、自衛隊が参加したという形をつくらざるを得なかった。
 外洋航海を前提にしていない数百トンの掃海艇の乗組員こそ、いい災難であった(私は極端に狭い艇内を案内してもらった経験がある)。

 こういうはぐらかしは日本のお家芸とも言えるものだ。だいたい自衛隊の創設そのものがそういう経緯で出来上がったものだから、もう習い性となっている。全く意識することなく同じ発想を繰り返すのだろう。

 1950年6月、日本に再軍備を要求するためダレス特使がやってきた。後に国務長官になる大物である。彼の滞在中に北朝鮮が突然、韓国に侵攻して朝鮮戦争が始まった。馬鹿なタイミングを選んだのは北である。

 それでも日本はダレスの要求を断固として拒否した。そして一方で「警察予備隊」を創設して、これで国内治安はちゃんとやってますからと言い張ったのである。

 アメリカの要求は、日本占領を早期に終わらせ、主権回復した日本をアジアにおける重要な同盟国として西側陣営に組み込むのが目的だった。欧州方面で冷戦が激しくなり、対日政策は一変していた。その前年、中国には共産党政権が成立し、またソ連は初の核実験に成功していた。

 アメリカの要求がどのようなものであり、日本の吉田政権のはぐらかしがどんなに米当局者を失望させ、かつ怒らせたかを想像してみるのも無駄ではないだろう。

 同じことが、半世紀たった今でも言えるのである。アメリカが要求したことに対して、日本が1年前に拒否したイージス艦の派遣で答えたということは、さて何を意味するのか?

   いうまでもなくアメリカの本当の要求が極めて大きなものだということだろう。
あえて想像すると戦費の負担もその一部であり、とてつもない巨額に上るのだろうと思われる。
 一説には戦後の経費まで含めて2千億ドルという試算もあるようだ。しかもサウジアラビアが戦闘に協力しない代わりに、総経費の半分の負担を約束したという情報もある。それなら日本の負担は、と計算してみよう。

 日本が「はぐらかし」を繰り返していると、それを逆手に取られて、まず巨額の負担を要求されるということもあり得よう。11年前のわが国と違って、こんどはおカネに余裕がない。仕方なく「じゃあ、イージス艦を」というのを期待したのだろうか。それでも、おカネはゼロというわけにはいかないだろう。

 アメリカの本当の要求を正面から受け止め、その上で対等な交渉によって量的には妥協にもっていく。そういう日本になるのはいつのことだろうか。(02/12/07)


コラム一覧に戻る