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平成15年1月31日

      奏功するか、戦わずして勝つパウエル戦略

 ブッシュ大統領が29日の一般教書演説で、2月5日に開催される国連安保理の場でイラク攻撃の理由となる証拠を開示するとの意向を明らかにした。

 これはキューバ危機のときに、安保理でアメリカ代表が高空から撮ったソ連ミサイルの写真を示して、ソ連代表をぐうの音も出ないまでに追いつめた故事を思い起こさせるものだ。
 アメリカのマスメディアにとっても忘れられない衝撃的な事件であったから、こんどもイラクがミサイルなどを夜陰に紛れて、査察寸前に運び出しているというような映像が公表されるのではないかと期待しているようだ。

 しかし、いくら何でも40年前と同じような証拠開示が行われることはないだろう。軍事偵察の技術は長足の進歩を遂げている。湾岸戦争以来12年間に及ぶ偵察衛星の蓄積もある。「エシュロン」として知られるに至った世界規模の通信傍受システムも稼働している。
 ぶっちゃけた話、国連の査察チームにはイラクが本気で隠そうとする秘密を探り出すなどという能力はもともとない。そういう目的で設置されたものでもない。国連決議を完結させるための名目的な存在、と言っても誰も怒らないだろう。

 だから、アメリカが安保理でどういう証拠を示すのか、別の意味で注目されるのである。本当に重要な証拠は、それを探り出した能力を明らかにしてしまう恐れがあるから出しにくい。どういうものを出してくるかで、どういうたぐいの偵察能力が使われているのかが分かってしまう。イラク中枢にいる協力者の存在までバレてしまうような証拠は出せないだろう。

 逆に言うと、アメリカはイラクに軍事攻撃をしなければならない理由を山ほど掴んでいるにちがいない。でも公表は避けたい。できればオモテの国連査察チームに裏で情報を与え、国連が公式の証拠として見つけだしてほしいということだろう。

 では次に、対イラク戦争はどう始まり、どう終わるのだろうか?

 この点については、現在までに漏れ聞こえてくる情報は割にはっきりしているように思える。それは湾岸戦争の再現ではなく、まして従来型の戦争でもない。さらにはアフガン戦争よりももっとRMA(軍事全般の革命)を徹底したものになることは間違いない。

 間近に迫ったイラク攻撃の目的は、サダム・フセインの放逐と新政権の擁立にある。したがって、民政施設の破壊は最低限に抑えなければならない。これは、アフガン戦争の教訓でもある。軍事施設以外はほとんど攻撃の対象にはしない。
 イラク軍幹部に対しては、開戦と同時に降伏するよう念入りな工作が行われているはずだ。特にBC(生物・化学)兵器を使用しないよう、ブッシュ大統領自ら警告している。もし、サダムの命令通りに配下の部隊にそういう兵器使用の命令を下したら、戦後に戦犯として厳罰に処すると具体的に明言している。

 ここが重要なポイントだ。こんどはアメリカが負けて、あるいは中途半端に引き揚げるということのない戦争が行われる。では、百パーセント負けることが分かっているイラク軍の将兵はどう考えるか。

 いざ米軍(と同盟軍)が開戦となったら、ほとんどのイラク部隊は戦わないのではないか。そういう工作をアメリカは時間をかけてやってきたのである。パウエル国務長官までがサダムの亡命を口にする理由は、もう実際の戦闘はほとんどないという見通しに至ったことを示唆しているのだろう。

 孫子の兵法に曰く「戦わずして勝つのが最上策」。アメリカの遙かに抜きんでた軍事超大国化は、どんな相手にも「戦ってもムダだ」と分からせるに至った。それが証明されるのがこんどのイラク戦である。もし証明されれば、北朝鮮に対しても、日本にとって好ましい影響が及ぶことになる。日本がアメリカのイラク攻撃に対して、どの国よりも密接に協力しなければならない理由がそこに存在する。

   戦後復興の費用分担? 
 そんなことに惑わされるのはおかしい。戦後の新政権擁立と治安維持にどれほどコストがかかろうと、イラクは世界でトップクラスの産油国なのだから、すべて自前でまかなえるはずだ。アメリカは何の心配もしていないだろう。日本に必要なのは費用分担の心配ではなく、アメリカの意図にどれだけ日本の国益をみいだすかという認識であろう。

 実際のところ、確たる証拠などは必要ないのである。裁判ならば証拠は必要であろうが、政治的にはそうとは言えない。世界の大勢とイラク国民の多数がサダム体制の崩壊と民主化を望んでいるのであれば、アメリカの行動は善とされる。ただ戦争はいけないというような平和論は、こういう場合に破綻してしまう。
 幸いというか、われわれ日本人はいま、北朝鮮情勢と比較して考えることができるようになった。イラクの次は北朝鮮を「強制的に」変えなければならない。そこから逆算してイラク問題を判断することになる。(03/01/31)


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