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平成15年2月28日

        「北朝鮮の民主化」言わないのも二重基準

 2月も終わりだが、まだイラク攻撃は開始されていない。ここまで遅れ込んできたのはなぜだろうか?

 これは重要な、もしかしたら最も重要な疑問となるかもしれない。本当は昨年の秋口にでも始まっておかしくない情勢だった。それを遅らせたのは北朝鮮だったとみるのが妥当な判断ではないだろうか。

 イラクと北朝鮮は「自然の同盟」になっている。この両国が密接に打ち合わせを行っているという証拠はないので、実際には北朝鮮が一方的にイラク情勢を利用し、かつそれがイラクへの支援になってアメリカの攻撃を抑止しているというわけだ。

 アメリカは昨年夏ごろに北朝鮮の核開発の証拠をつかみ、同時に対イラクでは慎重姿勢に転換せざるを得なくなった。チェイニー副大統領の強硬派路線に代わってパウエル国務長官の正攻法外交が優勢となり、軍事的には「戦わずして勝つ」まで圧力をかけ続けることになった。

 そこで誤算が生じた。世界的な反戦ムードと反米運動の高まりである。

 米国内ですら、戦争開始が遅れているうちに、北朝鮮とイラクに対する政府の対応が二重基準(ダブルスタンダード)であることに多くの国民が気づきはじめた。北朝鮮のほうが明らかに「ならず者」の度合いが高いのに、なぜ外交的手段しか考えず、イラクには明白な理由もないのに戦争を仕掛けるのか。

 そういう比較になってしまうと、米政府の隠れた意図は石油なのだという憶測が説得力を持ってしまう。おまけにブッシュ大統領、チェイニー副大統領などの背景に石油業界が控えているという思いこみが国民の一部にもともとある。それが尾ひれを付けて拡がりはじめ、いまでは9・11同時テロやブッシュ大統領の当選確定騒動まで遡って、何か一貫した大きな陰謀が展開されているのではないかというような風評の流布が始まってしまった。

 これは政治的には大失敗というべきだろう。軍事的には何とも言えない。パウエルはジャマイカ移民の子で黒人としてはじめて職業軍人のトップにまで上り詰めた人物だ。いうなれば軍人官僚の超秀才だから、政治家への根回しも戦争の計画も正攻法で百点の計画を立てるタイプである。だからいままで時間をかけていると見ていいだろう。

 しかし政治的にはこの間に、米国民の支持も世界の支持も失い続けていることは否めない。ブッシュ大統領は26日に保守系シンクタンクAEIで演説し、イラク攻撃の目的はイラクの民主化であり、ひいてはアラブ世界の民主化を先導することだと言明した。
 これをもっと早くから、もっと明確に、一貫して言うべきだったのである。証拠として示すことが困難な「ビンラディンの黒幕」とか「大量破壊兵器」を理由にすべきではなかった。サダム政権と金正日政権の2つを同じ独裁政権として並べ、国際社会はこの2つの政権自体を容認し得ないのだということを正面から打ち出せばよかったのだ。そうすれば北朝鮮にとっても同じ強さのメッセージを受け取らせることができたはずである。

 日本において、問題は世界で最も深刻なのである。中東の石油資源は確保しなければならない。北朝鮮の核は日本にしか深刻な脅威を与えない。この二重の安全保障問題を抱えているのは日本だけなのだから。

 北の核は韓国にとって微妙な感情を引き起こす。韓国に対して北の核が使われることはない。その必要もない。それにいつか南北統一が実現した暁には、7千万人のコレアが核保有国として日本を睥睨することになる。日本を従わせるにはこれしかない。

 われわれ日本人が本当に考えなければならないのはこのことである。だからこそ、いま北朝鮮の核武装を完璧に阻止しなければならない。そのためにはアメリカがイラクと北朝鮮に対して同じ基準を適用するようあらゆる手だてを尽くすしかないということになる。その意味で、ブッシュ大統領のAEI演説は大いに注目されるのである。(03/02/28)


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