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平成15年3月14日

          国連とはオレのことかと連合国

 国際政治学の講義では国際連合を完全に理解させるよう、いろいろと工夫している。そのノウハウのひとつを公開しよう。

 「国連の原加盟国とは何か?」という課題を与えて1週間弱の勉強期間を与える。「何か」にヒントがあって、国名や数を訊いているのではない。それなのに学生諸君はタカをくくって国連憲章を調べ、第3条(原加盟国)を見つけて「これだこれだ、簡単だ」とそのまま書き写してくる。「サン・フランシスコにおける国際機構に関する連合国会議に参加した国又は、、」というくだりである。国名を全部ズラズラと並べる者も少なくない。

 なかで少数のできる学生は、「又は、、」に続く後段にも注目する。「さきに1942年1月1日の連合国宣言に署名した国」となっている。さあ、この連合国宣言って何だ?

 なぜかパールハーバーからひと月もたたないうちに、ワシントンに26ヶ国の代表が集まって調印した文書で、「Declaration by United Nations」という名称で知られている。これにたどり着いた学生は、26の「連合国」をまたズラズラと並べることになる。

 この宣言は枢軸三国に対する軍事同盟を誓ったものだが、その前文が重要である。「署名国政府は、大西洋憲章として知られる1941年8月14日付アメリカ合衆国大統領並びにグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国総理大臣の共同宣言に包含された目的及び原則に関する共同綱領書に賛意を表し、、」という文言で始まっている。つまり大西洋憲章を拡大して軍事同盟を結成すると明言しているのだ。

 さあ「大西洋憲章」とは何だ? そこまで遡って調べる学生はほとんどいない。しかし、これこそが国連の最初の原加盟国なのである。  アメリカと英国の二国だけ。ルーズベルトとチャーチルのたった2人が、大西洋上の軍艦で秘密会談し、世界平和のためというキレイな衣をかぶせて打ち出したのが、「対ナチズム」軍事同盟の宣言だった。

 それが対日開戦後に連合国(United Nations)として拡大され、大戦の終結前に戦後の国際管理システムとして存続させることになったのが、日本でいうところの国際連合(The United Nations)である。中国語では「聯合国」と訳すのが普通だ。日本語のまやかしの典型と言えるだろう。

 1941年の大西洋憲章まで遡ってはじめて、国連の正体は米英軍事同盟だったと分かる。日本人が国連に何かとてつもない理想を見たがるのは、実に不思議な現象と言わなくてはならない。「国連中心外交」という国是は、有り体に言ってしまえば、日米安保体制にかぶせるキレイな衣だった(今でも)。

   そういう目で見ると、日本がイラク問題で米英側に立つのはごく自然であり、それしかないという選択である。米英が新たな国連決議なしで武力行使に出たとしても、国連の本質がそれで決定的に変わることもない。むしろ米英両国は却って国連に対する支配力を強める結果になるだろう。アメリカの軍事力なしで世界の平和が維持されるとは誰も考えない。フランスだってそうだ。

 国連に代表される国際社会と米英が対立していると見るのは皮相である。国連を隠れ蓑に使えるときには使う。そうでないときは別の立場で国益を守る。日本以外の国はとっくにそうしてきたから、国連もそれなりに発展してきたのではなかったか。安保理決議を巡る現在の混乱は、そういう認識を広めるという意味でわが国にとって有意義である。(03/03/14)


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