top.gif
title.jpg

平成15年3月27日

(本日の『産経新聞』大阪版夕刊掲載原稿です。首都圏版には夕刊がないのでここに載せます)

      イラク戦争-----外交改革の好機

 「国連とはオレのことかと連合国」。わがホームページのコラムにそう書いたら記者氏の目に留まったらしい。いうまでもなく、昭和初期の本歌「ギョエテとは俺のことかとゲーテ云い」をもじったジョー句だ。

 イラク問題をめぐって日米同盟か国連かで、大議論が沸騰している。国連派のほうが分がいいらしい。しかし、これほどアホらしい議論はない。
 実は国連の正体(実体)は突きつめれば米英二国なのだから、米国追随か国連中心主義か、という二分法はまったく意味がない。決して比喩的に言っているのではなく、国連憲章にチャンと書いてあることなのだ。
 憲章第三条に「原加盟国」の規定があって、「1942年1月1日の連合国宣言」署名国が、もともとの加盟国だと明記されている。この「United Nations」(連合諸国)宣言には、前年1941年8月14日の大西洋憲章の趣旨に賛同して、「反ヒトラー主義」の軍事同盟を結成すると書いてある。
 すなわち、チャーチル英首相とルーズベルト米大統領のたった二人が大西洋上で発表した「反ナチズム」同盟がたまごであって、それがのちに国連として知られる国際機構に成長したというわけだ。
 いってみれば、仲のいいエーさんとベーさんが二人だけで小さな会社を興した。それが大きくなって、いまや世界的なグローバル株式会社に成長した。しかし、二人は会社の将来を思うと心配でしょうがない。
 思い切ってベンチャー事業に進出しようと考える。会社の役員も当然賛成すると思って提案してみると、案に相違して反対意見が多い。それでもよく話せば分かってくれるだろうと楽観した。しかし、とんでもない。ついには役員会で否決される勢いになってきた。
 エーさんとべーさんはがっくり。しかし同時に、それなら昔に返って二人だけでやろうよと創業者魂が頭をもたげる。それで作った別会社で二人はベンチャー(冒険)事業に乗り出した。
 これが米英主導のイラク戦争の本質だ。

 創業者二人のベンチャー挑戦が成功すれば、本体の役員たちは「私どもが間違ってました」と頭を下げざるを得ない。また仮に大失敗に終わったとしても、冷たく放っておけばいいというものではない。
 なぜならば、彼ら創業者はオーナー経営者であって、本体の株式の半分近くを保有しているからだ(安保理常任理事国五カ国の二)。会社が創業者二人を相手に本気でケンカすることは、そもそもあり得ないと分かる。
 会社側が社規社則を持ち出して反対するのは、立場上そうせざるを得ないからだ。しかしオーナーが新しい規範を作ったら、そっちの方が効力を持つ可能性が高い。
 国際政治が国内政治とちがうのはその点だ。ルールの強制力(警察力)は実質覇権国が保有する。国連にその力が存在しないことは明らかだ。
 それが分かっていながら国連に米英を押さえ込むことを期待するのは、自己矛盾というほかはない。
 もともと正式の名称すら「連合国」そのままなのに、なぜ日本政府は国際連合と意訳したのだろうか。意図的な誤訳というべきだろう。理想的な平和主義を掲げた国際連盟の後継機構だと、国民に誤解させようとしたのだろう。そのため戦後の日本人は、世界で最も国連に平和の幻想を抱くようになってしまった。

 イラク問題で国連決議を絶対視する論者ほど、従来、国連のいわゆる平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣に否定的だった。これは逆でないと論理矛盾するはずだ。
 それだけではない。国連はその本質が軍事同盟であり、集団的安全保障を基本としているのだから、日本国憲法およびその政府解釈は明らかに矛盾する。実際この矛盾に悩んだ永世中立国スイスは、昨年まで国連に加盟していなかった。
 米英のイラク攻撃を阻止できなかった内外の国連派は、イラク復興は国連主導でなければならないと主張する。それによってフランス、ドイツ、ロシアの「顔を立てる」必要があるという論者も出始めた。
 それでもいいが、日本にはもうひとつの安保脅威が控えている。世界の国連真理教につきあっているヒマはない。イラク戦争終結後は国連派が再び発言力を強めるだろう。それがチャンスでもある。
 日本はまず国連PKOに制限なしでフルに参加できるよう、国内法を整備することだ。国連派も反対の理由がない。「本体業務」と「後方支援」に分けて後者しかやらないといったような、国内でしか通用しないルールはもう乗り越え可能であろう。
 イラク再建への自衛隊参加は、各国と全く同条件で実施されるべきだ。政治上のそして建前としての国連のルールと、本音としての日米同盟の圧力の両方を使い分けて、北朝鮮の脅威を軽減していく。日本の外交改革のチャンスが訪れた。(03/03/27)


コラム一覧に戻る