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平成15年4月6日

         米・イラクの戦力比は1000倍

 数字で見れば分かるはずなのに、と思うことが多い。米軍がバグダッド市街に進軍したことで、ほんの数日前まで激戦、苦戦、誤算などと煽っていたメディアは頭を抱えている。

 ちょうどいい数字が表れたので取りあげておこう。AFP通信によると、バグダッド市街に進入した戦車、装甲車数十台の威力偵察行動によって、イラク兵約1,000名が死亡したと第三歩兵師団パーキンス第二旅団長が語ったという。
 もとより敵の死亡者を数えながら進軍したわけではないから、あくまで現場指揮官の推測以上のものではない。しかし、こういうのは「経験に基づく直感」というもので、そんなに外れてはいないだろう。それに、米軍の損害は戦車1台と乗員1名の戦死だという。つまり、近距離からのロケット弾を受けたために戦車は動けなくなったが、内部爆発までには至らなかったと推定できる。

 そこで、指揮官としては我が方の損害1名に対して、敵の損害は1,000名と見積もったのだろう。ここがポイントである。
 すなわち、今回の戦闘の見積もり基準が、おそらく1,000倍という数字になっていると推測できるのだ。実は私も、米軍の戦死者の数が最重要と見て、イラク戦争の推移を見守ってきた。4月5日までの死亡者は76名だが、そのうち事故死や味方の誤爆を除くと、敵弾による戦死者はわずか49名で、英軍の同様の戦死を入れても計55名である。

 私はこの数字を基準として、イラク側の戦死は約1千倍、すなわち5万から6万に上るだろうと推定していた。上記パーキンス旅団長の推測とほぼ一致するのである。

 最も精強といわれる特別共和国防衛隊(首都防衛任務)が仮にまだ温存されているとして、残りの共和国防衛隊などの中核兵力が7〜8万人だったはずだから、その大半はもう戦死か捕虜(約7千名?)になっている計算だ。
 これらイラク側の大量戦死は、戦場における戦闘ではなく、空爆によって吹き飛ばされたものだ。8,000発を超える誘導爆弾、700基に達する巡航ミサイルの威力を想像してみるといい。1発が爆発するたびにわずか数人のイラク兵が死亡すると計算しても、答えは「数万人」。1発で10人とすると、もう10万人弱の損害が出ていることになる。

 これが米国の戦争のやり方だ。12年前にも同じだった。地上戦が始まってからあまりにも一方的な破壊、殺戮となり、その実態が後から追いかけてきたメディアに報道されてしまった。「もうやめましょう」とパパ・ブッシュ大統領に進言したのは当時のパウエル統合参謀本部議長だった。今回はその何倍ものワンサイドゲームである。

   アメリカの物量戦のすさまじさを、日本人はさらに半世紀前にイヤというほど経験している。それなのに、米軍が苦戦しているかのような番組づくりに血道をあげるメディアとはいったい何なのか。本当に不思議な国である。戦争がうれしくてしようがないことがミエミエの軍事オタク評論家はまだ正直と言える。しかし、反戦を叫びながら米軍の苦戦をでっち上げて喜ぶメディアも、本当は(外国の)戦争が大好きなのではないだろうか?

 まさか北朝鮮の独裁者が日本のテレビを傍受してアメリカを見くびるとは思えないが、いままでの報道ぶりを見ていたとすると、逆に「日本の反戦反米運動をうまく操ればアメリカの軍事行動を阻止できる」と誤解したかもしれない。
 率直なところ、イラクは米国が「管理」してくれた方が日本の国益に合致する。だからイラク戦争は日本にとって死活的な問題ではないと言える。しかし、北朝鮮は安全保障に直接響く死活的な問題だ。その仕分けがほとんどのメディアにはまだ明確でないように思える。

 いま、北朝鮮に「誤解の余地のないメッセージ」を送り続けること。それが何よりも重要である。(03/04/06)


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