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平成15年8月31日

         恐るべき北朝鮮用語の「体制保証」

 北朝鮮を含む6カ国協議(北京)が始まる直前の24日、ユニバーシアード大会開催中の韓国大邱市で、南北民間人同士の衝突事件が起きた。北朝鮮の「記者」数人が、会場近辺で気勢を揚げていた「反」北朝鮮集会に殴り込みをかけたのだ。

 テレビ画面でも「記者」という男が激昂して「将軍様を冒涜するのは許さない」という意味のことを怒鳴っていた。逃げているのが韓国人で、それを北の「記者」が追いかけて暴行に及んだのも、はっきり見て取れた。日本でも知られているドイツ人フォラツェン医師が倒れているのもよく見えた(直後に病院に担ぎ込まれた)。

 さらにその4日後、マスコミが「美女軍団」ともてはやす女性応援団が、バスの窓から見かけた歓迎の横断幕に怒り狂い、勝手に取り外して持ち去っていく場面が派手に報道された。幕には金大中大統領(当時)と金正日総書記が握手している写真が大きく印刷されている。北の女性たちは、将軍様が雨に濡れるかもしれないのにとんでもないことだと泣き叫んでいた。

 これらが、実は北の要求する「体制保証」の意味なのだと認識している人が、関係5カ国の中にどれだけいるだろうか。

 北朝鮮は6カ国協議の場で、予想された通り従来の主張を繰り返すのみだった。枝葉の部分を除けば、「米朝不可侵条約の要求」に集約されるものだ。それを言い換えると現在の支配体制を認めて国際社会に受け入れよ、ということになる。

 実のところ不可侵条約は、アメリカが受け入れるかどうかの問題ではなく、法的にあり得ない。朝鮮戦争はまだ終わっていない。一方に国連、他方に北朝鮮と中国が当事者となって、休戦協定が結ばれているだけだ。この休戦状態をそのままにして米・朝だけが不可侵条約を結ぶことは不可能である。

 そんなことは百も承知で、北が不可侵条約を要求するのは、不可能な要求の見返りに「核開発断念という最大の譲歩」を提示してみせるためである。こういう架空の取引をあたかも存在するように見せかけることによって、核開発を続ける口実を手に入れる。この辺の仕掛けは実にうまいものだ。

 対する米日韓(プラス中露)のほうでは、不可侵条約は無理だが、北の核開発はなんとしても阻止したい。だから条約とまではいかない別の手段で、北の体制を保証するように考えなければならない(?)。そういうように持っていくことがすなわち、北の本当の狙いだと思われる。

 そこで、北のいう「体制」とは何かが明確にされないと危ない。金日成・正日親子は南半分を含む全朝鮮の正統政権だという自己認識を貫いている。そのことを知っている人は専門家と言っていいぐらいだ。一般にはほとんど知られていない。北では、韓国はアメリカの傀儡政権とみなし、上から下までそう教え込んでいる。対等の独立国と扱っていないのである。

 だからこそ、あのユニバーシアード大会の「記者」や女性応援団の振る舞いが出現したわけである。悪いことに韓国の政府やマスコミはその行為に迎合しているように見える。明らかに国際スポーツ大会を無難に運営したいという理由だけではないようだ。現地の警察でさえ心理的に、既に北の支配者の正当性を認め出したような行動を示している。

 いま仮に国際社会が何らかの文書で北朝鮮の「体制保証」を認めた場合、韓国の正当性の保証を同時に文書化しない限り、北は半島統一の正当性を認められたと受け取るに違いない。それが、そもそもの金「王朝」の存在意義であり、北の「臣民」に苦難を強いる唯一の理由なのだから。

 北の「記者」の暴行容疑取り調べはしないのか。彼らの本職を調べないのか。女性応援団はどういう資格で入国したのか。宿泊、バスなどは誰が負担しているのか。会場になぜ特別席があるのか。一般観客は有料なのに入場券はどうしたのか。横断幕を持ち去ったのは窃盗ではないか。持ち主はどう反応したのか。

 こういう数々の疑問に目をつぶっている日本のマスメディアもまた、北から見れば既に将軍様の足元にひざまずいている「倭奴」ということになるのではないだろうか? (03/08/31)


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