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平成15年10月31日

     拉致問題に制裁ロードマップを!

 韓国に亡命中の黄ジャンヨプ氏が、ようやく念願かなって米国を訪問している最中だ。もと北朝鮮労働党書記で金親子の側近ナンバーワンだった黄氏だが、亡命してからは、逆にその影響力が北との宥和優先の金大中(前)政権に恐れられ、体のいい軟禁状態におかれていた。

 米国での黄氏の発言でいちばん面白かったのは、日本人記者が拉致問題について質問した際の答えである。
 氏はもううんざりしたという表情で、次のような意味の答えをいろいろに繰り返している。「そんな質問にもならないことを聞いてどうするのか」「金正日の独裁国だという意味がまだわからないのか」「金正日がすべてを指示するのだ」「金正日が指示しなければ何事も動かないのだ」、云々。

 つまり、日本人拉致は独裁者が指示したから実行されたもので、それを日本人記者が「金正日は自分は知らなかったといっているが、、?」と訊くのがおかしくてしょうがないという反応を示しているのである。

 この点は私も全く同意見であり、極めて重要なことだと思うのだが、それ故にわが国のメディアもあまりはっきり取りあげてこなかった問題である。つまり、黄氏の答え(イコール私の判断)はすなわち、約1年前の日朝首脳会談の重要部分を否定することになるからだ。  金総書記は小泉首相に対して拉致を認め謝罪したとされるが、それは部下が間違ってやってしまった過誤を認め、自分は知らなかったとして「遺憾」を表明したものだ。

 そんなことはあの国ではあり得ないのだ、と黄氏は改めて主張し始めたわけである。そう言うことができる場を、いま初めて得たということも意味する。

 この1年、拉致問題は膠着したままだ。その大きな理由は、この「金総書記は知らなかった」というフィクションの上に、日本の拉致外交が走らされてきたことにあるのではないだろうか。

 拉致被害者5人の帰国直後にも書いたことだが、彼らだけを返してきた理由はかなり明確になっている。北の側から見れば彼らはいまや日本国民でなく、北の国籍を持つ「公民」であり、忠実な「将軍のしもべ」だと思い込んでいた。だから日本に思想工作員として送り込んだのであって、2週間したら任務を達成して帰ってくるはずであった。
 その思想(宣伝)工作の骨子は、「幸せに結婚して、家族みんなが将軍様のおかげでエリート並の待遇を受けている」と日本国民に思いこませることだったと推測される。

 この工作がうまく遂行されれば、あとの拉致被害者の問題は全部、うやむやに終わらせることができると踏んだのだろう。

 もちろん、そういう作戦はすべて金将軍が自ら指示したはずだ。こんどは「知らなかった」といっても、誰も信じないだろう。だからこそ、その謀略作戦がとん挫してしまったとき、つまり5人が日本にとどまると決意し、日本政府がそれをどうすることもできない状態に陥ったとき、日朝関係は二進も三進も行かなくなってしまったのである。

 独裁者は、同じ問題でもう一度、日本に謝罪することはできない、と考えているだろう。自分の作戦が大失敗したことを、指導部内でどう説明しているのだろうか。
 最近、北の外交官が国連などの場で、5人の拉致被害者を「日本が拉致して返さない」と非難し始めている。よく言うよ、と言いたくなるが、同時にこれは独裁者がまだ突っ張り通しているのだなと、受け取らなければならない。

 だから、黄氏の言うように、北の変化を期待するのは間違いなのであって、体制の変革を促すしか手はないという判断が正しいということになる。「体制の保証」を与えようとする発想は、核問題の時間稼ぎという別の論理から出てくるものだが、大いに危険な冒険であることはいうまでもない。

 したがって、わが国は日本独自の論理と倫理を確立し、それに基づいて経済的圧力を段階的に強化していくことに手をつけるべきだろう。送金停止から始めて、人の交流、物の交流を次第に制限していく。相手の反応をあらかじめ想定して「ロードマップ方式」を提示するのもいいだろう。

 いちばんよくないのは、過去1年間の対北朝鮮外交のように、国民の目に何をやっているのか(やっていないのか)見えないようにしていることである。「見せないのが外交だ」と公言する外交官などは、過去1年間の実績に照らして退陣してもらうのが当然だ。もう評価のための時間は十分過ぎたと思われる。(03/10/31)


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