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平成16年3月12日

        台湾に受け継がれた旧日本軍のDNA

一般に公開されている事実なのに世間ではほとんど知られていないことがある。本欄平成13年10月に取りあげたルーズベルトの日本本土奇襲作戦も、その一つである。

今回は、台湾の軍事力(中華民国軍)が事実上、旧日本軍の後身だということを改めて取りあげることにする。

それがどうした、というひとは既に知っている人であろう。本も出版されているし、NHKの特集にもなったくらいだ。昨年6月19日の産経新聞にも台湾発の企画記事が載った。
 しかし、それぐらいではなかなか、世間の常識にはならない。産経の特派員氏も、それ以前の本と番組のことを知らずに書いたような気配だった。

 話は1949年に遡る。共産党軍に敗北して台湾に逃れた蒋介石総統は、自分の軍事力がとことんダメだということをよく認識していた。そして、この軍隊を再建して捲土重来、大陸反攻を実現するためには、国民党軍を日本軍に改造するしかないと考えた。

 蒋介石は日本軍人だった経歴もあり、日本軍に好意的だったことは確かだが、それだけでなく「我々は日本軍に一度も勝ったことがない」とまで言っている。確かに日本が負けた相手は太平洋の米軍と満州のソ連軍だった。

 その蒋介石が連絡をとった相手はかつての支那派遣軍総司令官・岡村寧次だった。岡村元大将は蒋介石に恩義を感じていたので、すぐ実行責任者として富田直亮・元陸軍少将を選び、その年のうちに富田以下10数人の旧日本軍将校がひそかに台湾に渡った。文字通りの密航だったという。
 こうして富田団長の偽名・白鴻亮の一字をとって「白団」(ぱいだん)が誕生し、約20年の長きに渡って、中華民国軍を指導していくことになるのである。

 かれらは単なる将校ではなく、陸軍大学の教官経験者などのエリート軍人だった。最盛期には数十人が常駐し、幕僚課程の必須科目として台湾軍将校に旧日本軍の思想から戦略、戦術、用兵、訓練などを、完全に日本式のままにたたき込んだ。
 陸大とか戦後の指揮幕僚課程(CGS)というのは大学レベルではなく、佐官級の選び抜かれた将校だけが進む幹部研修、出世コースである。
 したがって、現在の台湾軍(中華民国軍)の上層部はすべて、白団教官の薫陶を受けていることになる。

 当初、蒋介石が意図したのは、少ない物資をどううまく活用するかを、日本軍の経験から学ばせようということだったらしい。この点においては、物量豊富な米軍から学ぶことは不可能だ。しかし、軍事システムのなかで、今でいう「後方支援」、すなわちロジスティックスだけを、つまみ食いすることはどだい不可能である。
 軍事は思想だといってもいい。旧日本軍の精神教育から始まるのは当然であり、それが兵士の毛布の畳み方まで貫徹されることになる。NHKの番組では、今でも毛布の畳み方から朝の教練まで旧日本軍そのままでやっているところを見せていた。

 白団教官たちの偉いところは、教材をすべて手作りしたことである。旧軍の教材を切り売りしたのではなかった。戦後の核戦略や中東戦争などの新しい事態にも、日本の協力者から情報を送ってもらって、絶えず最新の教材を手作りしていた。
 三軍大学の図書館には、千点を超す手書き(縦書き)の教本が保存されている。この情熱を支えたものは何だったのだろうか。

 かれらの活動は68年、アメリカにニクソン政権が誕生したことで、再びひそかにピリオドを打たれた。中国への接近を模索しはじめた米国が、これまたひそかに台湾と日本政府に圧力をかけたのである。

 白団長すなわち富田直亮氏はその後も台湾に住み続け、上將(大将)の位を保持していたという。白団の総数は83人といわれるが、海軍関係や日本側の支援組織についてはまだ明らかにされていない。(資料:中村祐悦『白団〜台湾軍を作った日本軍将校たち』芙蓉書房出版、1995年)

 旧日本軍将校や兵士が、インドネシアやビルマの独立戦争に参加したことは割に知られている。毛沢東の共産党軍にも強制参加させられた日本軍将兵がいたが、これはそれほど知られていない。白団の活動はもっと知られていない。おそらく、台湾政権との断交や、日本人の旧軍への複雑な思いが影響しているのではないだろうか。

 中国政府は台湾に対して特別に厳しい。独立するなら戦争も辞さないという。その疑心の裏には、「自然の同盟」にいつか日本国民が目覚めるのではないかという恐れがひそんでいると思われる。実際に、中国が台湾政権の下にある金門・馬祖の2島を砲撃した「金門島事件」(58年)のとき、白団教官たちが防衛戦を指導・助言したという経緯がある。もちろん現在の台湾軍が実質的に旧日本軍の後身だと認識しているだろう。

 そう認識していないのはむしろ日本人のほうだ。旧日本軍の頭脳とノウハウ、それに米国式デモクラシーと近代技術システムが融合したらどれほどの抑止力になるか。それが国家戦略というものではないだろうか。ひるがえって日本の自衛隊は、遺伝的に台湾軍の兄弟といえるのだろうか? (04/03/12)


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