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平成16年4月25日

         「自己責任」で自爆した反自衛隊運動

善意なんだから何でも通ると思う傲慢。日本の親ならまず「子供が大変な面倒を起こして申し訳ありません」と謝るのが文化というものですね。家族ともども典型的な戦後教育の犠牲者です。(4月9日)

人質と犯人側が同じ思想、政治目的を持っていれば、危害どころか大事にされると思うのが普通。なぜ家族が大騒ぎして、あんなに居丈高にふるまうのか。それが謎解きのカギ。(4月12日)

人質3人はやっぱりお客さんでしたね。残る疑問は、とても日本的な犯行声明文2つと、とても30代とは思えない2人の言動です。(4月16日)


 当oiso.net 表紙に上のような一言コメントを書いておいた。この人質事件と報道の大嵐は、またまた憲法を巡る大混乱と理解した方がいい出来事である。

 自己責任というのは当たり前のことで、本来、反対論など出るはずもない常識中の常識だ。しかし、3人+2人の人質が揃って反米、反自民党政府、反自衛隊の活動家であり、そういう目的を持ってイラクに入ったことから、彼ら5人を擁護する勢力は自縄自縛になってしまった。

 昨年の総選挙で土井社民党と志位共産党がほとんど壊滅したことで、いわゆる左翼勢力が絶対的な少数派であることが証明された。ところが、こと自衛隊のイラク派遣に関しては、国民世論のほぼ半分が反対ないし批判的である。

 だから、当初の人質3人の解放条件が「自衛隊の撤退」だったことで、左翼勢力は絶好の反撃機会だと判断した。あの家族たちの異様な高姿勢は、同情的に見ても支援組織の政治的なそそのかしに乗せられたものだったと思われる。

 しかし政府のほうは、脅迫ビデオが演出だということに初めから気がついていた。私もひと目見てそう思ったくらいだから、テレビ業界の人々も、捜査当局も、皆気がついていたはずだ。
 映像の不自然さよりも先に、犯行声明文のおかしさについては産経、日経、毎日など、全国紙にも報道されていた(朝日を除く)。自衛隊派遣が国内法違反だとか、劣化ウラン弾に言及しているとか(人質少年の「専門」分野)、生きたまま焼き殺して食物にするとか(なにかの誤訳?)、いくら何でも不自然すぎる。

 そこで政府サイドでは、実際には危険性がないと判断して、3人の自己責任を口にし始めた。左翼勢力に対して、そろそろ事件の真相を公表するぞという警告の意味だったのかもしれない。

 そして3人が解放されたのをきっかけにして、多くのメディアが、解放の条件を追求するのではなく、3人の口から自己責任を語らせようと一斉に方向転換した。これは支援勢力にとっては悪夢のような逆流である。最初にマスコミをうまく乗せ、大騒ぎを起こさせた報いが、突然やってきたわけだ。

 自己責任というのは個人だけの価値観ではない。国家にも当てはまる。それに気がついた左翼メディアは愕然としたであろう。今まで日本政府を対米追随一辺倒だと攻撃していたのは誰だっただろうか。もっとアメリカ離れせよ、独自外交をやるべきだと主張してきたのはどのメディア、どの政党だっただろうか。

 日本が国家として自己責任を追及すると、まさに自衛力強化、自衛隊の国軍化、そしてもちろん憲法改正しなければならないことになる。反米、反日、反自衛隊の運動が、奇妙な人質事件を利用しようとしたために、それが完全に裏目に出て正反対の世論形成に大きく貢献してしまったのである。

 政府のリーダーシップとしても、自己責任を盛んに口にした以上、国家の自己責任を改めて自覚したことだろう。憲法改正の動きはこれで加速されたと見て差し支えない。もちろん、移ろいやすいメディアのことを考えたら、自衛隊に大きな損害が出た場合に世論がどう展開するか予断を許さない。そうしたケースについても為政者は対策を幾通りも考えて準備しておかねばならない。それも自己責任だ。

 もうひとつ、海外渡航を禁じることは憲法上できないという憲法問題があるが、ここでは論じないことにする。

 もっと重要な要素である「なぜ解放されたのか」という疑問について、作家の曾野綾子氏が産経紙上で「結局、税金で戻ったということ」という一文を寄稿している(4/23)。敬虔なカトリック教徒であり、イスラエルにもアラブにも詳しく、また日本財団の無給会長として浄財を世界に配る立場の人である。出し方、もらい方に精通した珍しい日本人といえよう。
 その人が、「すべての関係は婉曲な言葉と現実的な金、という二重構造になっているのがアラブの文化だから、現実的には5人は日本政府が出した金(つまり国民の税金)で贖われて帰って来たのである」と、あいまいさなしに断定している。

 私はそれほど断定する根拠を持たないが、おおかたそんなところだろうと考えている。イスラム聖職者(法学者)協会の幹部の言動から、いつの間にか自衛隊撤退が消え、女性人質1人の善意が評価され、第2次人質の2人に至っては解放の理由づけまで消えてしまった。「仲介者」というアラビア語には「カネを出す人」という意味があると聞いたことがある。

 日本政府は「仲介者」にカネを渡し、その一部が仲介者から犯行グループ(または部族丸ごと)に支払われる。これは全く自然な交渉である(誉めているわけではないが)。もちろん、身代金はいわゆる官房機密費から出る。政府はそうと認めるわけにはいかない。

 だから、自己責任ぐらい認めなさいよ、と本人たちと家族に言いたい気分でしょうね、小泉さんは、、。(04/04/25)




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