top.gif
title.jpg

平成16年7月4日

           角栄、ニクソン、小泉の共通点

 参議院選挙の隠れた争点が表面に浮かび出てきた。それは小泉首相の「危なっかしさ」だと言っていい。

 世間的には「会社もいろいろ」というような言葉の軽さが問題とされているが、もっと専門的に見ると、軽さよりも危なっかしさが小泉首相の問われるところだ。

 あまり指摘されていないことだが、小泉首相は田中角栄首相と似てきたし、ニクソン米大統領とも共通点を持つようになった。何が似ているのか?

 特定の秘書あるいは側近がボスの威光を笠に着て、政治の前面に出てくるという現象である。

 田中首相の登場は小泉登場を上回る華々しいものだった。その人気絶頂期にマスコミを牛耳っていたのは一介の私設秘書・早坂茂三氏だった。最近死去したとき、元新聞記者仲間だったこともあって、マスメディアはあまり悪いことは書かなかった。
 しかし早坂秘書は、強腕首相のさらに上を行くほどの独裁者として、あらゆるメディアに君臨していた。その罪は功をはるかにしのぐと言わざるを得ない。

 そういう秘書の空威張りを許すようなボスは、やはり末路が哀れになっていく。ニクソンも同じだった。不遇の落選時代からの側近たちが、大統領になったあとホワイトハウスに入り込み、国政を牛耳るようになった。家族の顧問弁護士ミッチェルは司法長官となり、さらに再選委員会の長に転出し政権2期目を確実にしようとした。

 ウォーターゲート事件の発端は、野党民主党本部に盗聴器を仕掛けようというミッチェル氏配下の思いつきだった。それを本気にして実現にもっていったのは、同じく側近中の側近であるハルデマンと、アーリックマンだった。当時、彼らはニクソン大統領の首席補佐官と内政担当補佐官。つまり、日本でいえば官房長官と政務秘書官に相当するような最重要官職にあった。

 実際に、ウォーターゲートビルの民主党全国委員会オフィスに盗聴器が仕掛けられたのは1972年5月28日のことで、翌月17日には再度忍び込んだチームが現場で逮捕された。捕まった7人の内にニクソン再選委員会の警備主任が含まれていたことが明らかになり、米国史上最悪といわれるウォーターゲート事件の幕が開いた。

 ニクソン自身は少なくとも盗聴計画を事前に知っていたとか、承認を与えたということはないが、こういう側近を重用したことが自身の命取りになったことは疑いない。このボスにして、この子分あり。古今東西、どこでも通用する真理といえよう。

 ニクソンはその年の11月に再選されたが、政権は事件の隠蔽工作を次々に暴かれ、連邦大陪審はミッチェル、ハルデマン、アーリックマンなど7名の側近を起訴、ついで最高裁も議会もニクソン自身のもみ消し工作を容赦なく追求し始めた。2期目の政権は相次ぐ辞任解任の混乱で日常業務さえ滞り、74年8月8日、米国史上初めての任期途中の大統領辞任が発表された。ちょうど30年前のことである。

 小泉首相の5月訪朝は、従来の外務省(田中均審議官)ルートではなく、官邸独自の朝鮮総連ルートが作られ、それが成功したものだといわれる。その証拠として挙げられるのは、小泉・金首脳会談における在日朝鮮人優遇の約束であり、直後の総連大会に送られた小泉自民党総裁の謝意メッセージである。

 この官邸独自ルートの出現と同時に、田中ルートの後ろ盾だった福田官房長官が官邸を去り、飯島勲(政務)秘書官が躍り出てきた。首相の訪朝時に、金正日と首相の握手の向こうに、もう1人の主役といわんばかりにレンズを睥睨している写真が全国に流れた。写したカメラマンは、はからずも重要な真実をレンズにとらえていたのである。

 飯島政務秘書官は、日本テレビの番組が訪朝前に、「日本がこめ援助20万トンを約束」とスクープしたのに激怒し、「取材源を明かさなければ同行記者団に入れない」と脅しつけた。福田後の官邸の実力者が誰なのかを誇示した瞬間だった。飯島氏はもともと小泉さんの当選以来の議員秘書であり、小泉家の子飼いというべき側近である。

 「危ない側近」の要件を完全に満たしている秘書官が、アブナイ外交を陰であやつる。こんな危ない話はない。

 小泉さんの再訪朝が専門家に評判が悪いのは当然だが、日が経つにつれて一般の国民にも、売国的外交ではなかったかと疑われるようになった。ボスが再選されるのがすべてという側近が外交を牛耳るとどうなるか。参院選を控えて、そういう人であれば何を考えるだろうか。

 ニクソン再選を至上命題とした側近たちが何をして、結局ボスはどうなったかを考えれば、小泉首相の危なっかしさがどれほど深刻な問題なのか分かるだろう。
参院選を乗り切れば、小泉政権はあと3年続く可能性が強いといわれていた。しかし世論調査では、有権者も考え直している様子がうかがえる。

 今日は The Fourth of July 、アメリカ独立記念日だ。米国民は30年前に見た悪夢のことを思い出したくもないだろう。小泉さんはそうした歴史感覚を持ち合わせない人のようだ。そうであっても、角栄政治の栄光と瓦解はすぐそばで見ていたはずだから、もって他山の石とすることはできるはずだ。その気になれば、、、。(04/07/04)



コラム一覧に戻る