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平成16年8月26日

               ユダヤ人と日本人

 オリンピック漬けになった頭を切り替える軽い話題を2つ提供しよう。ホントは軽くないのだが、、。

 「豚に真珠」ということわざがある。何となく日本的な感じがするが(真珠が日本特産のイメージだから)、実はれっきとした聖書の一節であって、キリスト教徒なら知らない者はないほど有名なフレーズだ。

 豚に真珠は似合わないとか、おしゃれしてもムダだよという意味ではない。本当の意味は、餌をあさっている豚に真珠を投げてやっても、その価値が分からないから足で踏みにじり、食べるのを邪魔されたのを怒って噛みついてくるぞ、というような説諭だそうだ。この部分の一節は犬と豚を同列に扱っている(マタイ7章6節)。

 それだけなら犬と同格ということになるが、別の箇所では、「悪魔悪霊が豚の中に入る」(とりつく)という物語が展開されている(ルカ8章)。つまり、悪魔が人間にとりついたので、イエスが追い出して豚の中に入らせ、豚もろとも湖に落として溺れさせたというストーリーになっている。

 この話を思い出したのは、中国で鳥インフルエンザのウイルスが豚から検出されていたことを、8月20日に中国当局者が初めて認めたと報道されたからだ。 昨年の鳥インフルエンザ流行騒ぎの時から分かっていたことらしい。パニックを恐れて今まで抑えていたのだろうと思われる。

 もう広く知られているように、鳥インフルエンザウイルスはそのままでは人間に感染しない。しかし、どういうわけか豚の体内に入ると遺伝子変異を起こし、人間に感染するインフルエンザウイルスを生み出すことが分かっている。

 イエスの時代以前、つまりユダヤ教徒たちは3千年か4千年も前に、豚の生物学的特異性に気がついていたのだろうか? 
 ユダヤ教徒(ユダヤ人)とイスラム教徒(ムスリム)は、神の啓示に忠実であろうとする。だから、豚を忌避する戒律は共に厳しく守っている。時間的にその中間に派生したキリスト教では、食べ物についてはいい加減になってしまったようだ。

 空飛ぶ鳥が遠くから悪魔悪霊悪鬼を運んでくるというのは、わが国でも古くから気がついていたらしい。平安時代に「唐の国から鳥が来る」と恐れる歌が歌われたという記録があるという。

 現代に猛威を振るうインフルエンザウイルスA型はすべて中国南部の鳥・豚共生地域から発生している。1918年のスペイン風邪は2千万人とも4千万人ともいわれる死亡者を出した。現在の世界人口なら軽く1億人が死んだことになる。
 57年のアジア風邪、68年の香港風邪、77年のソ連風邪でも、計数百万人が犠牲になった。次の大流行(パンデミック)はいつあってもおかしくないという。そのときに有効なワクチンはないそうだ。

 ちなみに、映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」で悪役ブッチャー(屠殺屋、本職は肉屋)が、吊した豚を教材にしてレオ・ディカプリオにナイフの使い方を教える場面が出てくる。豚は内臓の配置が人間と似ているので練習台になるというのだ。こういうシナリオは日本人には書けない。

 つまり、人間と豚は共に悪魔が乗り移る対象であり、内蔵の配置が似ていて、しかも牛のように反芻をしない。雑食で何でも食べてどん欲だ。そんな似たもの同志を一方的に食べている人間に、ときどき豚くんが仕返しをするよう神が仕組んだらしい。
 豚の恐ろしさを知らない日本人は、世界でも幸せな民族だということであろう。

 もう一つの話題も遺伝子に関わることで、日本人の有りようを深く考えさせてくれる。

 「女性天皇」是か非かという議論で、最近、否定論の一つに遺伝子の特質を理由にして、天皇は「男系の男子」でないといけないという主張が出てきた。
 それは女性の染色体が「XX」の組み合わせで、男性の染色体は「XY」の組み合わせであることを根拠とする。この「Y染色体」は男の子にのみ受け継がれ、女の子には受け継がれない。その子もまた同じである。

 したがって、天皇の初代が神武であれ誰であれ、その後継が男系の男子のみに承け継がれていれば、初代のY染色体は延々と今上天皇にまでつながっていることになる。これは腹が正妻であるかどうかを問わない。

 いわゆる「万世一系」とはこういうことなのだという理論である。歴史上、天皇の承継が男系にこだわったのにはこういう理由があったのか、と驚く人も多いだろう。その驚きには、同時に、そんなに2千年ぐらい古くから、日本民族(倭人?)だけがY染色体の不思議さを知っていたのだろうか、という疑問も当然含まれる。

 しかし、事実としてそうなのである。いちばんよく知られているのは6世紀初め、越前の豪族になっていた応神天皇「五世の孫」が探し出されて、第26代の皇位に就いた事例である。「継体天皇」という称号の異様さ(遺徳などを顕さない)が歴史的に関心を呼んでいる天皇だ。

 この「継体」の意味を深く考える人々は、やはり「男系の男子」の意味を重視せざるを得なくなる。継体天皇の実例が示すように、天皇の兄弟は皇族からやがて臣籍降下して民間人になるが、それでも男系の男子には歴代天皇と同じY染色体が受け継がれている。歴代の天皇がそのプロセスを繰り返していくわけだから、日本人の大部分は天皇と遺伝的につながっていることになる。

 昔からわが国では、「日本人の先祖をたどれば、みんな清和源氏か桓武平氏だ」と言われてきた。それがまんざら冗談ではなかったということになる。女系が混じるのを意に介さない社会ではこういう冗談すら成立しないから、日本人はこの男系へのこだわりを十分意識していたのだろう。

 もちろん、この説が全面的に、医学的に証明されたとしても、それが直ちに現代の日本において女系天皇を否定する根拠となりうるかどうか。また、日本人が古代から本能的に知っていたことを、世界の他の民族が知らなかったということがあり得るのか。

 以上2題、夏の終わりの頭の体操として、是非、いろいろとひねくり回していただきたい。(04/08/26)



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