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平成16年9月30日

        改造内閣、これがサプライズでないなんて、、、

 「驚天動地」の衝撃を受けたのは、思いもよらぬ幹事長職を拝命した武部勤・元農相だけではない。翌日には北朝鮮拉致被害者家族の人たちが、中山恭子・内閣官房参与の辞職願いに飛び上がって驚くことになった。

 なるほど、足手まといになってきた拉致問題を切り捨てるのが、内閣改造のひそかな目的のひとつだったのか!
 そう考えるのは邪推なのかもしれない。しかし、小泉首相の唐突な北朝鮮再訪の経緯からすると、今回の人事は一本のスジが通ったものだと考えざるを得ない。

 サプライズの程度でいえば、今回の第2次改造が今までで最大なのに、メディアの多くは逆の評価をしている。女性が政権発足時の5人から2人に減ったとか、幹事長が清新な若手でないというようなことは、予期した通りになっていればサプライズでないわけだから、もはや焦点ではなかったのである。

 本当の驚きは、2人の総理大臣補佐官の任命にある。この人事の意味するところにもっと注目しなければならない。
 
 山崎拓補佐官は、よくいえば、ホワイトハウスの大統領首席補佐官をモデルにしたのだろう。成功すればわが国で初めての大統領的首相と補佐官制度が実現する。
 そのハシリともいえる体制が、福田康夫官房長官時代に始まっていた。福田氏は党三役や閣僚の経験が皆無なのにもかかわらず、省庁の官僚たちは、大臣に話を持っていく前にまず福田官房長官に説明に行く、というほど国政すべてに絶大な影響力を持つに至った。外交についても、「福田外相、川口次官」と陰口されるまでになり、アーミテージ米国務副長官も必ず官邸に福田氏を訪問する習慣になっていた。

 そういう事実上の首席補佐官を、制度として今回の内閣改造で設置したとみれば、山崎氏の立場が理解し易いだろう。来年4月の補選で衆議院議員に復活すれば、自派閥の党幹事長を従えた実力者補佐官として、小泉首相との二人三脚を演出していくことになる。

 首席補佐官は英語では Chief of Staff 、陸軍のトップも同じ(参謀総長と訳す)。すなわち Staff 全員を統括する役目である。

 重要なのは、アメリカの閣僚は Secretary であって、大統領の指示を実施に移す役人のひとりでしかないことだ。ホワイトハウスの首席補佐官が実質的に、すべての政策を大統領の名の下に統括している。

 日本の閣僚はそういう体制ではなく、また官僚はすべて政治的任命でないために、アメリカのように縦の命令系統が単純明快につながっていない。当然、小泉・山拓体制がそうすんなりと機能していくことはないだろう。
 だから今は、山拓・首相補佐官は「特命事項担当」とせざるを得ないのだが、実際のところは、国政すべて特命事項なんだよ、という本音が見え隠れしている。

 そうなると、もうひとり、明らかに同格でないのに同じ肩書きに横滑りした川口順子・前外相は何なのだろう?
 外相としての評判は決して芳しくなかった。前の改造でも更迭とみられていたのに留任した。その前には、環境庁長官から初代の環境省大臣に留任している。よほど小泉さんと波長が合うのか?

 この疑問は解けないが、川口補佐官の登用によって、中山参与が玉突きで辞職に追い込まれた。夫の初入閣(文部科学相)と引き替えかというような目くらましまで付録についている。これが意図的でなくて何が意図的かというような仕掛けだ。
 政権の人気浮揚を狙うなら夫婦で閣僚(恭子は外相)という任命のほうが話題性が高いだろうし、夫はともかく恭子夫人が首相補佐官に昇格というのがいちばんムリがない。なぜ、そうしなかったのかがポイントだ。

 新外相に文相2回の門外漢を任命したことも、外交を官邸主導で取り仕切るつもりであることは明白だ。山拓首席補佐官のもと、内政は郵政民営化シフト、外交安保は米国シフトを強化し、北朝鮮問題は米国シフトの枠内に収めるという方向が見えてくる。

 この方向で突っ走ることができるかどうか。問題はいくつも指摘できよう。拉致問題の解決は国民世論と同化してしまっているから、中山参与を用済みとしたやり方に反発が強まると、内閣支持率は目に見えて下降するだろう。
 米軍の大規模再編に対処するには山拓補佐官の手腕が期待されるが、これは米国を満足させればさせるほどわが国世論の失望を招く恐れが強い案件だ。
 また新外相と外務省が米国型の首相補佐官(外交問題担当)をどう敬してどう遠ざけるか、誰も楽観していない。

 首相の立場としては、あと2年のうちにやるべきことははっきりしている。そのための体制も整備した。しかし、やればやるほど党内からも国民からも反発が強くなることが分かっている。
 小泉人気という風はもう吹かない。頼みの綱はブッシュと山拓という2人の盟友がまず選挙で当選してくれることだ。それでコケたら自分もコケる。
 
 何とも他人任せ、風任せの政権になってしまった。(04/09/30)


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