平成16年11月29日 領海認めず謝罪もしていない中国 このところ中国の対日攻勢が熾烈さを増してきている。チリの首都サンティアゴで1年ぶりに実現した日中首脳会談の席上、胡錦涛国家主席(President)は小泉首相に対して、10月の中国原潜による日本領海侵犯事件について全く返事をしなかったという。 これは非礼を通り越して、中国首脳部の認識が「あそこは日本の領海ではない、侵犯していない、だから謝罪もしていない」ということで統一されていることを示唆している。小泉首相は「再発防止が重要だ」と相手に同意を求めたのだから、領海侵犯を認めているなら全く無視という選択は出てこないはずだ。 つまり、答えなかったことで、逆の真意が確認されたと判断すべきである。 この事件では10月12日、町村外相が中国公使を呼んで正式抗議したのに対し、中国は16日、武大偉・外務次官が阿南大使を呼んで「遺憾の意を表した」とされている。謝罪をする中国が格下に下がり、謝罪を受ける日本が格上に上がり、しかも呼びつけられていることに注目すべきだ。 それにも増して、「遺憾の意」というのは日本側の翻訳表現であって、武大偉次官が口頭で何と言ったのかは明らかにされていない。 「遺憾」というのは日本の政治家に特有のあいまい表現で、本来の意味は自分が「残念だ」ということに尽きる。他者への謝罪の意味は含まれない。 もし、中国の外務次官が本当に「遺憾」と中国語で言ったのだとしたら、謝罪はしていないということになる。その疑いをさらに強めるのが「技術的な原因から石垣水道に誤って入った」という表現である。 実はこの文言を新聞各紙は(日本の)とか(日本領海の)というカッコつきで補足しているので、逆に実際にはそう言わなかったということが分かる。 つまり、国際海図には石垣水道という地名が書かれているから、それを使って表現しただけであって、日本領海と認めてはいないよ、と注意深く日本側に伝えたのだと考えるべきだろう。 つまり、この事件全体を通して、中国は当該潜水艦が中国海軍のものだということを日本に「通告」しただけであって、逆に領海に関しては居直った形で、「日本領とは認めていない」という認識を示したことになる。 小泉首相と外務官僚は、それでも強引に「謝罪を受け入れた」と国内外に宣言することで、この問題にケリを付けることにした。本当は受け入れがたいが、サンティアゴで首脳会談をお願いするという目先の政治目的のために、相手に貸しを作っておいた方がいいと判断したのだろう。 その「貸しを作る」という感覚は、とんでもなく甘かった。胡錦涛主席が潜水艦の「借り」を意識して靖国問題では強く出ないだろう、と期待した日本側は見事に背負い投げを食わされてしまったのである。 主席は正面から「靖国神社」という固有名詞を口に出し、おまけに「来年は反ファシスト勝利60周年の敏感な年だ」と付け加えたという。 小泉首相は何も反論できず、ただ「中国の立場は十分に理解する」と答えたらしい(中国の報道局長による)。つまりは、完敗ということだ。 中国の首脳部が何を考えているのか分かったからには、すぐ有効な反撃をしなくてはならない。それができないなら、首脳会談などムリにやることはないのだ。 「日本はナチスドイツと違ってファシスト国家体制などではなかった」「日本軍が無条件降伏した相手は米英ソの現地司令官と蒋介石・中華民国総統だった」と、なぜ言えないのだろうか(過去ログ『誰が遺棄したのか遺棄化学兵器』03/9/30参照)。 国共内戦を経て中華人民共和国の建国に至ったのは1949年10月である。第2次大戦の対日勝利をすべて自分たちのものだとするのは、歴史を直視していないことを意味している。 しかし、大陸の共産党政権はあえて来年2005年をそうした正統性誇示の節目として大々的に祝賀し、その勢いを08年の北京オリンピックにつなげ、その翌年の建国60周年記念を最大限に盛り上げようと考えている。 その思惑が分かっただけでも、サンティアゴ首脳会談は成果があったと言えるかもしれない。但し、分かっただけで何も手を打たなかったら、何の価値もなかったということに評価が変わるのは当然である。 胡錦涛政権のシナリオは、国内の不満を政治体制批判に向けさせないこと、台湾の独立機運を徹底的に叩きつぶすこと、そしてアメリカを敵に回さないこと、の3つが基本になっている。その中で日本をどのように使おうと考えるか、を考えることだ。 靖国問題で日本を守勢に立たせ、国内の不満を日本に向けさせる。大陸棚の上にあるすべての領域は中国領だと押し通す。この2つに関しては台湾も同調するか異論を唱えないだろうし、アメリカは関心を示さない。中国にとっては安全牌だ。 オリンピックまでに不満をガス抜きにして、過度の民族意識爆発を防ぐ必要がある。それには日本を悪者に仕立て、日本人を適度に怒らせながら、それも利用してオリンピック前に第2の対日勝利に持っていく。オリンピックは大成功に終わらせ、翌年の大祝賀の号砲花火とする。 さあ、日本にどんな外交戦略がありうるだろうか? 第2次大戦終結60周年記念も、アメリカが反対しにくいイベントである。日本としては台湾と協力してブッシュ政権に反対を根回しすべきだろう。しかし、そんな度胸と戦略が小泉さんにあるだろうか? 胡錦涛政権の思惑をすべて無効にする手だてを考えよう。必ず、あるはずだ。それにしても日本の中国研究者って、何をしているのだろうか。(04/11/29) |