top.gif
title.jpg

平成17年1月23日

     経済制裁に先制攻撃か、偽札、偽写真、安倍・中川攻撃

 昨年、旧ソ連圏の一角で、旧KGB系統の工作と疑われる毒物事件が繰り返された。同じように、いま日本で、北朝鮮の工作というよりも情報戦そのものの、先制攻撃と疑われる事件が立て続けに起きている。

 朝日新聞とNHKの泥仕合のもとになったのは朝日記者の取材であり、4年前の番組の制作過程がいきなり一面を飾る一方的な記事になった。そのこと自体が、問題の核心である。
 安倍晋三・自民党幹事長代理はそう理解し、テレビでのナマ発言で「北朝鮮を擁護する勢力が狙い撃ちしてきた」と相手方を明示して反論しているので、当欄でも北朝鮮と書いて差し支えないだろう。

 たしかに安倍氏は、対北朝鮮外交では強硬派の代表格とみられ、中川昭一・経済産業相も同じ立場であることはよく知られている。そのふたりが4年前の番組の件で揃って一人の記者、一つの新聞社から非難記事を書かれるというのはおかしい。
 情報戦の知識があれば、こうした動きで強硬派がビビってしまい、経済制裁すべきだという論調が鈍ることは、十分計算できることだと言えるだろう。

 それでは、韓国在住の脱北者が、未確認の日本人拉致被害者と酷似した人物の写真を、TBSに提供したことをどう理解したらいいだろうか。

 結果として、日本政府の公式な鑑定専門家の信用に傷が付いたことになった。それが目的だった可能性を否定できない。同鑑定人は簡易鑑定で、男性写真については「拉致被害者本人」と最高度の判定をしていた(TBS報道)。
 そんなに酷似した別人の写真が、よりによって脱北者の身辺にあったという説明を、誰が信じるだろうか。

 しかし重要なのは北朝鮮が何を狙ったかということであって、日本人が信じるかどうかではない。
 つまり、北は横田めぐみさんの遺骨と称するものがニセだったという日本の鑑定そのものを、能力が低くて信用できないということにするのが目的だったのではないか。

 遺骨のDNA鑑定と写真の鑑定は同じではない。しかし、そんなことは北にとっては問題ではない。日本のすべての鑑定能力を信用できないという根拠がひとつでもあればいい。それがあれば、遺骨問題で立場はイーブンになると計算したのだろう。
 疑惑の写真を提供した脱北者が、11月以前に提供(売却)した日本人拉致被害者(らしき)写真はホンモノだ、と言い訳しているのは意味深長である。遺骨問題との時系列で、ほとんど白状しているようなものだからだ。

 ニセ1万円札の大量出現も、ほとんど同じくらいの確率で、やはり経済制裁を阻止するための工作ではないかと囁かれている。
 
 北は90年代にドル札の精巧な偽物をつくって流通させた前歴がある。「スーパーK」と呼ばれたニセ百ドル札は、全世界で700億ドルに達したと言われるほど猛威を振るった。偽造専門の開発製造部署があることも知られている。その流れからすると、年末から急に出現した偽札は本番ではなく、まだ「警告」なのかもしれない。

 あまりにもお粗末な「急造」版であることが、かえって明白なメッセージだと受け取られるのである。偽札の中には日本の小・中学生がパソコンで作ったという「作品」も含まれているだろうが、警察が注目しているのはそんな単発の事件ではない。同じ記番号の偽札が日本全国で組織的に使われている事実である。日本だけでなく、韓国の合法カジノでも大量に見つかった。

 明らかに日本国内で作られ、すぐ見破られることを知りながら、全国で大量に使ってみせる。この意味は、北への送金禁止を有力な制裁手段として検討している日本に対し、そんなことをすれば逆に、カネで日本の経済を混乱させることができるぞという脅しではないか。
 
 北の偽造能力なら、はるかに精巧な偽札を大量に作ることができるはずだ。今、せっせと印刷している最中かもしれない。もし経済制裁を実施したなら、こんどはウルトラ精巧なニセ円札(旧札)を海外で流通させる計画なのではないだろうか。
 そうすれば、海外では突然、旧円札が事実上、使用を拒否される事態になるだろう。日本国内でも、旧札が警戒されて新札への両替要求が殺到するだろう。日銀はその要求に応えることができない。

 さらに第3段階として、新札の偽造という事態も決して可能性ゼロというわけではない。古今東西、技術は競争的に進歩する。偽造防止技術はやがて破られるときが来る。絶対に偽造できないという貨幣はまだ現れていない。

 しかし、だからといって経済制裁を手控えることもできないし、そうしてはならないこともまた自明である。北がそれほど真剣に制裁を恐れること自体が、日本にとっての外交のテコと考えるべきだろう。経済制裁は効果がないなどという反対論の胡散臭さが、この3つの先制攻撃(と思われる事件)で証明されたということでもある。(05/01/23)


コラム一覧に戻る