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平成17年4月23日

            ドイツ人ローマ法王の歴史的意義

 亡くなった教皇ヨハネ・パウロ2世の後継者にドイツ人のラッツィンガー氏が選出された。115人の枢機卿による密室投票(コンクラーベ)はわずか2日目、4回目の投票で決着した。
 百票という圧倒的多数で決まったらしい。もともと前法王の最側近であり、20数年も教理省長官(閣僚)を務め、3年前からナンバー2の首席枢機卿に就いていて、葬儀も主宰していた。つまり本命中の本命だった。

 したがって意外性はほとんどなく、メディアの反応は新法王が前任者の保守路線を受け継ぐ人物で、改革派には不満だろうというような視点が多いようだ。しかし、もっと重要な事実が見逃されているのではないだろうか。

 それは、ポーランドとドイツの歴史的因縁と、ポーランド人法王がドイツ人後継者を準備していたということの意味である。

 ポーランドは悲劇の国だ。18世紀後半に3回も軍事力で分割され、3回目には滅亡させられた。加害者は3回ともプロイセン、オーストリア、ロシアの3国だった。前2者は後にドイツ帝国として統一される。

 次に第2次欧州大戦の前哨戦として、1939年8月23日、ナチス・ドイツとソ連は突如「不可侵条約」を結んで世界を驚かせたが、その時には秘密にされていた付属議定書で、両国は勝手にポーランドの分割を取り決めていた。翌9月には両国軍が侵攻して第2次大戦の火蓋が切られ、ポーランドは2度目の滅亡を経験することになった。

 45年、ナチスが敗北し、独立を取り戻すはずだったポーランドを、米英指導の西側は結果的に見捨ててしまった。ソ連がすでに軍事力で支配していたからである。戦後の冷戦構造の中で、ポーランドはソ連圏の一員として、地理的には東ドイツの後衛に位置することになった。

 3度目の滅亡の危機は1970年代から始まる。すでに56年にはポーランドの「ポズナン暴動」に連帯したハンガリー動乱にソ連が直接介入し、68年のチェコスロバキアの広範な民主化運動「プラハの春」には、ソ連軍だけでなく東欧諸国軍まで加わって同盟国を制圧するに至った。

 ここで、前代未聞、空前絶後、驚天動地の行動に出たのがバチカンであった。78年、全く無名の若いポーランド人枢機卿を、新法王に選出した。ポーランドはカトリック国ではあるが、それまで法王を出したことはない。もちろん、反宗教を謳う共産圏から法王は選ばれていない。それどころか非イタリア人の法王は、なんと455年ぶりだったのだ。この選出がいかに破天荒なものだったか、今でも語りぐさである。

 この巨大な「くさび」がソ連圏に打ち込まれたことによって、ソ連はポーランドの民主化運動に対し、ハンガリーやチェコの時のように軍事力で押さえ込むことを躊躇せざるを得なくなった。それがグダニスク造船所の労組から始まる「連帯」運動をやがて成功させ、ひいては東欧の離反、そしてソ連の崩壊へと導いていく導火線となっていく。

 決して「風が吹けば桶屋が儲かる」式の因果関係でなく、直接的にバチカンが打った一手がつぎつぎに波及して、たった13年後にソ連を倒してしまったのである。

 ポーランドはバチカンの助けを得て、ロシアに見事に復讐し終えた。もう一つの歴史的な怨敵であるドイツに対してはどうするか?

 この難問に答えを出したのが、当事者であるヨハネ・パウロ2世だった。彼は自分の在位が26年半の長期に及ぶと知っていたかどうかわからないが、就任3年後にはもう、54歳の若きドイツ人を教理省長官という要職に任命し、以後、一貫して手元から離さず、自分の代理者として実績を積ませたのである。

 ドイツに対しては、復讐でなく、和解。それが自分の役目だとポーランド人初の法王は早くから決意していたのだろう。264代と265代、ポーランドからの法王とドイツからの法王。2人でワンセット。それで怨念をすべて精算しよう。
 その意図が世界のカトリック指導者たちに理解されていた。ドイツ人としてはなんと950年ぶり、非イタリア人が2代連続するのは歴史上初めてである。

 ここで、話題を変えよう。4月22日は靖国神社の春の例大祭だった。靖国神社の始まりは戊辰戦争や西南戦争の戦没者をまつった東京招魂社である。そこに賊軍側の戦没者がまつられていないという批判があったが、現在では別殿にまつられているそうだ。

 さらに、現在の第9代宮司は南部藩の第45代当主の南部利昭氏が就任している。つまり、賊軍の南部藩が靖国神社のトップ(祭主=教皇)を出しているわけで、すでに官軍側と賊軍側の「和解」は成立しているといえるだろう。

 このコラムの言いたいことが分かってきただろうか? 破天荒、前代未聞の提案かもしれないが、靖国神社の次の宮司に在日外国人を選んだらどうだろう。神職の資格は必要ないというから誰でもいいのである。韓国や中国がなにもいえなくなる、どころか元首が参拝したくなるような靖国神社に一気に変えてくれるような在日の適任者はいないだろうか? (05/04/23)
        


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