top.gif
title.jpg

平成17年9月18日

         前原ショックがもたらした望外の外交好機

 小泉自民党圧勝の影響が、直ちに43歳の民主党新代表を生み出した。これで不透明だった次期首相候補が、自動的に50歳の安倍晋三氏に絞り込まれた。

 9.11総選挙は、確かに日本でも何かを大きく破壊するに至った。まさか首相がそれを予期してこの特別な日を選んだわけではないだろうが、、。

 いちばんショックを受けているのは中国であろう。皮肉なことに知日派のエースといわれている王毅駐日大使が赴任した直後から、彼の期待がことごとく裏切られる展開となっている。

 こんどの解散・総選挙の流れでも、王大使は郵政改革法案が否決され小泉退陣となるだろうと予測し、本国にそう報告していたらしい。それが最後に真逆になり、中国指導部が最も見たくなかった悪夢の連続が始まってしまった。

 約1年後の平成18年9月には、自民党と民主党の両方で党首選が行われる予定だ。変人の小泉首相が総裁任期延長を固辞し続ければ、自民党は新総裁として前原誠司民主党代表に見劣りのしない、若くて新鮮な人材を選出しなければならない。
 この時点で70歳になる福田康夫氏は論外ということになろう。44歳の前原代表と比べられるとなると、65歳になる麻生太郎氏や61歳になる谷垣禎一氏のような「中二階」組もそのまま「屋上」へと上げられるだろう。

 つまり、今まで若すぎるし閣僚経験がないという理由で、後継レースのトップ走者とは見なされていなかった安倍晋三氏が、その弱点を一気にプラスポイントに転換して先頭に躍り出たわけである。
 前原氏は民主党の副代表はおろか、幹事長、政調会長などの要職を経験しないで代表に躍り出た。安倍氏はこれまで大抜擢の幹事長1期のみで、閣僚経験もゼロだが、小泉改造内閣で重要閣僚に就けば誰も何も言わなくなる。

 また、小泉首相が総裁任期延長を受け入れた場合、今から2年後、又は3年後に安倍政権に引き継がれるのは全く自然だと思われる。

 この見通しが確定したことが、外交的にはきわめて重大な出来事なのである。
 中国首脳にとっては、まさに悪夢のはずだ。彼らは親中派と判断している福田氏が一日も早く政権を担うことを願っていた。王毅大使の活動はすべてそこに狙いを定めていたと言って差し支えない。対称的にいちばん阻止したいのは、小泉首相よりも手強いと予想される安倍政権である。

 それだけではない。前原代表は安全保障の専門家で思想的には新保守である。民主党内の左派とは相容れない立場だ。憲法改正でも自衛権の明示を主張している。
 また、中国があたかも友党のように頼みとする公明党が議席を減らし、見かけ以上に大きく政治力を落とした。自民は参議院では過半数を制していないので、依然として公明党の協力は必要だが、平成19年の参議院選挙で過半数を確保できれば、もう連立相手は必要なくなる。そういう予測が成り立つだけで、公明党はもう強いことは言えなくなる。公明党の「濡れ落葉」化である。

 さらに、政界再編ないし大連立の可能性もなしとしない。原則論としては憲法改正が具体性を帯びた時点で、自民党、民主党それぞれの中に賛成と反対が分かれるので、賛成同士と反対同士が一緒になれば自然に再編となるはずだ。

 しかし、それ以外に、もし中国(と韓国、北朝鮮)がこれから更に日本を格下扱いし、侮辱の限りを尽くし、領土・領域を侵犯し続けるようであれば、外交政策を巡って政界再編ということになる可能性が出てきた。それが、この小泉劇場といわれる内政大変革の果実である。

 中国は、江沢民主席以来の対日外交が間違いだったと気がついているだろう。しかし、そう認めることができない体制である。日本は逆に、いま最高に強い立場に立って外交ができるのに、それに気がついていないかもしれない。たまたまアメリカでも、ブッシュ大統領が天災で思わぬ内政の苦境に落ち込んでいる。

 日本がこんなに相対的に有利な立場にあることは滅多にないだろう。いまから1年、外交上の目標を設定し、成果を予測し、あっと驚くような手を打つ。それが小泉首相の責務であろう。

 中国は小泉首相に手を焼いて、「任期切れまで待とう」と考えた。それを「待ったらよけい悪くなるだけよ」と訂正したのが民主党である。ふつう、任期切れが近いと指導力は落ちる(レイムダックという)。それを最大野党がカバーする理想的な外交基盤ができた。(05/09/18)


コラム一覧に戻る