top.gif
title.jpg

平成17年9月30日

        4ヶ国で常任理事国を目指した究極の愚

 アメリカのボルトン新国連大使が9月28日、下院外交委員会の公聴会で証言し、日本「のみ」が常任理事国に加わるべきだという米政府の立場を再確認した。ブッシュ大統領もライス国務長官も、同趣旨の発言を何度か繰り返している。

 日本政府はなぜ、アメリカのかねてからの日本優遇姿勢を無視し、単独の常任理事国入りを主張せず、こともあろうにブラジルやインドと一緒になって、ドイツと共に4ヶ国で常任理事国に名乗りを上げる戦術をとったのだろうか。

 当コラムで以前に指摘したように、国連というのはもともと米英両国が、ドイツの三度目の脅威に備えて連合国(United Nations)を戦後も維持しておくために考え出した軍事同盟である。この両国が、いわばオーナー経営者の立場だ。フランス、ソ連(現・ロシア)、中国(現・北京政権)は、いわば代表権を持たない専務、常務といった位置づけになっている。

 したがって、まずブラジルやインドといった係長・課長クラスが、いきなり常務会やそれ以上の経営会議に加わることはあり得ない。これは常識で分かることだ。

 日本政府には、そんな常識すらなかったことになる。ブラジルやインドはおろかアフリカ勢のヒラリーマンまでもが、いかにもまじめくさって常任理事国になる資格があるかのように振る舞うのは、そういう文化なのだからと聞き流すのが世界の常識である。

 波多野敬雄氏が、国連大使のとき特にブトロス・ガリ事務総長に呼ばれた裏話を明らかにしている。それによるとガリ事務総長は「日本の常任理事国入りを何とか実現させたい。インドやブラジルと組まず単独のほうが票を集めやすい。アメリカも歓迎する」と提案したという(『世界週報』05年9月6日号)。

 約12年前のことだが、このころ日本政府はまだ米国が、日本とドイツの2ヶ国を有資格国として支持しているものと思いこんでいた。これが第一の間違いだったが、なぜかその間違いを訂正しないままレールを踏み外し玉砕してしまった。
 日本は、というよりも日本人は、いまだにドイツに親近感を持ち、なんでもドイツと共通の利害があるように思いこんでいるのではないだろうか。
 しかし、現在ではかなり大きな違いが生じているのが実状である。

 いちばんはっきりしているのは、ドイツがアメリカとの同盟よりも、フランスが盟主たらんとするヨーロッパ連合(EU)に将来を託したことである。あまり報道されないが、フランスとの合同軍もすでに機能している。
 ということは、もしドイツが常任理事国になれば、EUが二票となり、米英オーナー経営者側は日本を加えて三票、それにどう見てもアウトサイダーのロ中二票という色分けになる。

 現在でも、米英vs仏ロ中では二対三になる。日独を入れれば三対四で不利は変わらない。日本だけ入れれば三対三でバランスは改善される。こんな明らかな計算がなぜ分からないのか。

 アメリカが日独昇格支持からドイツを外したのは、イラク戦争に反対したからではない。それよりもずっと前のことだった。ガリ事務総長は、その変化をよく見ていて日本に好意的な忠告をしてくれたのである。

 そうなると、なぜ日本はその好意を無にしてしまったのだろうか。当然の疑問である。その答えは、おそらく外務省の無能、というよりも正確には国益よりも「省益」を優先させたからだろうと推測される。

 外務省の考えでは、米国は支持しても、他の常任理事国が拒否権を持っている以上、日本の常任理事国入りはほとんど無理スジと読んだのだろう。その上で、できるだけ多くの共同提案国を獲得することで、公的開発援助(ODA)が効果的であることを証明しようとしたのではないか。

 すなわち、外務省の本音は、4ヶ国そろっての常任理事国入りを標榜しながら、実はODA供与相手国の支持を確認し、共同提案国をこれだけ獲得したと手柄を誇ることにあったのではないかと思われるのである。

 もし、そうだったとしたら、もう目も当てられないほどの失態である。ODA相手国はほとんど協力してくれなかった。なかでも最も当てにしていた東南アジアとアフリカは、まるでわざとのように離反してしまった。
 中国が徹底的な外交的圧力を加えて日本支持をつぶしたことは事実だが、ガリ事務総長が忠告したように世界の地域にはそれぞれ特殊事情があって、4ヶ国それぞれに対して反対派の活動を刺激する結果になってしまった。

 それがもう一つの大きな誤算であった。ドイツの事情の変化を認識していなかったこととあわせ、外務省の能力を疑わせるに十分な失敗例をさらけ出して終わってしまった。

 選挙騒ぎの余波がまだ続いていて、この深刻な事態に対する世論の反応はまだ弱い。小泉内閣の外交を批判する野党や評論家も、その主張は靖国などの周辺国問題や、米軍再編、牛肉摩擦などを揚げ足取りしている段階だ。

 しかし、現実にはそんな個別の事案を取り上げるのではなく、「外交改革」を次の政策テーマに据えなければならない。そのくらい重大な問題なのである。
 
 前コラムで指摘したように、小泉首相は異例に強い立場に立った。これを外交にも活用しない手はない。国連総会でただ原稿を読んでとんぼ返りしてくるようでは、先が思いやられる。
 
 波多野氏は「政治面に関する限り国連とは安保理であり、安保理が国連のすべてだ」とまことに正しい認識を述べている。それが日本外交の基礎にならなかったのはなぜだろうか。

 周辺国とうまくやれないのに常任理事国になれるはずがない、というような天地逆さまの反対論もある。郵政改革反対論に妥協して負ける道を選ばなかった首相が、それと同じような外交圧力に屈するとは思われない。それをうまく国民に理解させるには、分かりやすい外交改革の目標を打ち出すことが不可欠である。(05/09/30)

コラム一覧に戻る