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平成17年11月23日

            これは皇室のお家騒動なのか?

 女性天皇の問題についての第3弾になる。「女性天皇は机上の空論。なぜか?」(01/05/22)、「ユダヤ人と日本人」(04/8/26)の続きである。

 小泉首相の「私的諮問機関」である「皇室典範に関する有識者会議」が、女性天皇のみならず「女系天皇」まで容認する答申をまとめるというので、にわかに反対論が高まってきた。皇族からも旧皇族からも異論反論が公刊されるに至った。

 ここまでの経過で見過ごされているのは、皇室のことなど何も知らない世界の人々はどう見るかという視点である。これをまず2点に絞って指摘してみよう。

 第1は、有識者会議の結論なるものを見れば、これは明らかに「秋篠宮外し」が目的だなと感じるだろうという点である。皇室に限らず外国の王家も日本の大名や大商人の家でも男系相続がふつうであり、後継者の次には弟が万一のための控えとして位置づけられる。これは何の不思議もないことだ。

 しかし、当主に子供が授かると、そういう弟の存在が疎ましく思えてくる。そして、ついには弟を放逐して実子が確実に跡継ぎとなるようにしようと考える。

 これは、そうした説明のいらないほど簡単なことなので、皇室にそういうお家騒動が起きているのだと誤解される可能性は非常に高い。後継順位が2番目から3番目に下がるのは、一見大したことのないように見えるのがミソで、実際には確率の問題として秋篠宮家に皇位が移る可能性が、百パーセント近くから一挙にゼロ近くまで下がることを意味する。

 われわれ日本人は、皇室にお家騒動などありえないと思っているが、それでも有識者会議の審議が非常に拙速であること、皇族の意見は聞かないという高姿勢、天皇の存在を根本的に変質させる重大事であるのに少数意見がなく、すべて全員一致の結論だとしていることなど、疑いをもたれる余地は多分にあるといわざるを得ない。

 現在、皇太子のあとに5人もの男性順位者が存在し、特に第2順位の弟宮は十分に若いのに、その最も確実な後継候補を排除するのはどうしてか。国民および外国に通用する完全な理由を示す必要があるだろう。

 実は似たような例が最近ヨルダンに起きたので、何も知らない外国の反応は、これと重ねて日本のイメージを格段におとしめるのではないかと危惧される。

 ヨルダン・ハーシム王国では、ご丁寧に99年と04年の2度にわたって、皇太子が「解任」されてしまった。99年には長期在位したフセイン王の後を継いだアブドラ2世が、伯父に当たるハッサン皇太子を解任し、事実上放逐した。さらに5年後の04年11月29日、こんどは異母弟のハムザ皇太子(24歳)を解任してしまった。

 アブドラ国王は明らかに、実子のフセイン王子(10歳)に王位を継がせる意思を示したのだが、あまりに幼少なので皇太子に指名できず、未だに空位としている(フセイン皇太子と書いている資料もある)。

 日本でいま起きている「事態」は、実によく似ているのではないだろうか。

 第2の点は、偶然、そのヨルダンが日本と同じ男系男子の一系王統を維持しているという類似である。

 ヨルダン王家は、近代国家としては第1次大戦後に英国が建てたので古いとはいえないが、イスラムの開祖ムハンマドの直系を継ぐアラブ随一の名家であり、歴史的に聖地メッカの領主として君臨していた。同じく歴史の浅いサウジや湾岸首長国なども、またムハンマドの傍系を継ぐモロッコ王国も、同様に男系相続であるが、ヨルダン王室はその頂点に位置するため、皇太子問題は世界から注目されることになる。

 イスラム諸国が一般に親日的なのは、そうした共通の伝統が背景にある。それに、皇室はムハンマド一統より確実に数百年も古いから、それだけ尊敬の念もプラスされる。

 インドネシア独立の英雄スカルノ大統領は、天皇陛下に特別の尊崇の念を抱いていたといわれるが、その理由もモスレム(イスラム教徒)の意識に基づくものだったのだろうと思われる。

 もし、いま日本が、現実の必要に迫られてもいないのに、男系一統を捨てたと認識されたなら、イスラム世界の日本を見る目が確実に変わるだろう。もちろん、いい方に変わるはずはない。なぜ日本は、イスラムと同じ「正しい後継」を捨て、正しくない「イスラエルの後継方式」に乗りかえるのか、と質問するだろう。

 実は、ムハンマドが生まれたアラブは男系社会であり、ユダヤ人社会は対照的に母系社会である。イスラエルの国内法では、「ユダヤ教徒」と、「ユダヤ人を母として生まれた者」をユダヤ人と認定している。

 この違いの理由は、両民族共通の祖であるアブラハムが、まず端女(はしため)に生ませた長男イシマエルの子孫がアラブ民族となり、のちに正妻が生んだ次男イサクの子孫がユダヤ民族となったという神話にある。
 すなわち、アラブ民族は父方を重視し、アブラハムの長男の系統であることを誇りとする。対するユダヤ民族は、アブラハムの正妻の系統であることを誇りとし、母方の血を優先させて今日まで至っている。

 さて、外国の目でこのように比較してみると、日本は国の歴史も文化も全部振り捨て、全く正反対の歴史に突入しようとしている、という印象を受けるのではないだろうか。それが小泉首相の「私的」意思によるものだとしたら、まさかこれも例の「年次改革要望書」に書かれていた、、、はずはないと思うが、、。

 ちなみに一言。ヒゲの宮様こと三笠宮寛仁殿下が私的エッセーで「2665年の歴史と伝統」と記されたことを、「何という時代錯誤」と嘲笑する向きがある。しかし、イスラムもキリスト教もユダヤ教も(これで世界人口の半分以上)、アブラハムは神がこしらえた人類1号のアダムから20代目の子孫とみなしている。また、ムハンマドは同じくアダムから50代目と自認し、モスレムはそれを心から信じている。

 皇族が皇室の歴史を2665年と称するのは世界的にみて当然であり、そういわなければかえっておかしいのである。フォード大統領が国賓として来日し、初めて昭和天皇の前に進み出たとき、緊張で膝がぶるぶる震えていたという有名な話がある。天皇という存在が日本の誇る最大の「ソフトパワー」だということを、外国人のほうがよく分かっている。女性、そして女系天皇になったら、アメリカ大統領がぶるぶる震えるだろうか? (05/11/23)


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