top.gif
title.jpg

平成18年2月5日

           続・これは皇室のお家騒動なのか?

 皇室典範の改正を外国がどう見るかという視点に次いで、では実際にどういう事態があり得るのかということを考えてみたい。

 小泉首相は記者団の質問に答え、「女系」天皇容認への反対論に「仮に愛子様が天皇になられ、そのお子さんが男子であっても即位を認めないということか?」と反発してみせた(1月27日夕)。
 これで、はからずも総理が、愛子内親王殿下の即位(皇太子のあとは、その子の順)をすべての前提に据えていることがハッキリした。だから急いでいる。なぜなんだろうか?

 それはともかくとして、総理大臣の「私的」諮問機関である「有識者会議」の答申は、端的に言えば3つの歴史的変革を提案した。
 第1は「男系」オンリーを変更し、「女系」天皇、すなわち男系である愛子天皇が入り婿との間にもうけるであろうお子が、次の皇位を受け継ぐことを容認していること。
 第2に、男女に限らず「長子」が皇位を継ぐとしていること。
 そして第3に、その入り婿の敬称を天皇と同様(陛下)とすると決めていることである。

 この3点セットを見ると、事態は国民の知らないうちに過激な男女同権論者の狙い通りに進んでいることが分かる。旧総理府キャリアで内閣府の男女共同参画局長を務めた板東眞理子・昭和女子大副学長が、「長子優先とした点は正直言って驚きました」と発言している。「報告書は世間の常識を一歩リードした感があります。一般社会に与える影響は小さくないでしょう」という大喜びの感想を見ると、有識者会議の過激さがよく分かるというものだ(読売、05/12/14)。

 これに第3のムコさん「陛下」の国際的突出ぶりが加わっている。英国女王の夫君フィリップ殿下は、もともと王族であるが、あくまで殿下であって陛下ではない。Your Majesty と、Your Highness とは、主従の関係にある。同格であるはずがない。将来、日本の入り婿陛下を、外国が His Majesty と呼ぶかどうか、国際経験豊かな有識者たちは検討したのだろうか。
 
 ここまでが基本的認識である。さて、このような皇室典範改正が実現したらどういうことが起きるだろうか。

 愛子天皇が実現することはあり得る。近代法の常識からすれば、相続順位が決まっているのを、いきなり法改正で順位を崩してしまうのは社会通念からしておかしいということになるが、この場合は誰も訴訟を起こさないので(権利が不明確)、通ってしまうだろう。

 問題は、その後に起きる。民間から歴史上初めてのムコ殿皇族が実現した後、「我こそ正統の次期天皇なり」と名乗りを上げる人が出てくる。それも一人ではなく、複数だろう。これを便宜上、2通りに分けてみよう。

 第1のグループは、むろん、旧皇族である。現在すでに、皇族復帰してもしなくても、男系の男子として正統性が証明されている方々が存在する。何十年後かに愛子天皇のお子が誕生したことに刺激されて、「その子に皇位をわたすわけにはいかない、万世一系の皇統は私に受け継がれている」という主張を誰かがすることは十分予想できよう。

 第2のグループは、問題がもっと複雑になる。皇室典範が改正されたとして、「女系」天皇は天皇でない、皇統の断絶だと考える現皇族はどういう行動をとるだろうか。
 
 部外者として考えると、実はシンプルなことなのである。さっさとできるだけ多くの子を民間にもうけることだ。皇族の男子が全員努力して、一人でも二人でも皇室外に男子をもうけるように行動する。その結果、男子が生まれれば、母体は誰であれ、第1グループの誰かよりも明確に、皇統を継ぐべき男系男子として浮上する。
 今はDNA鑑定が進んでいるので、ニセ皇族事件はありえない。逆に正統性を証明することは容易になっている。

 皇族の御落胤を倫理的に批判することはできない。第一、結婚も非結婚も区別するな、婚外子も嫡出子も全く同権だと主張しているのは、ほかならぬ過激な同権論者たちである(夫婦別姓論者を含む)。だから制度としての側室は否定できても、婚外子の存在を否定することは根本的な自己矛盾に陥る。
 
 男子皇族の妃殿下たちも、たぶん知らんぷりして協力するのではないだろうか。それが、日本人の歴史的知恵というものではないだろうか。
 
 皇室内で皇位を継ぐ皇族が正統性を薄くしていき、民間に潜在的「正統天皇」が次第に増えていく。そういう日本になることが見えている。平民のムコ殿を国民が「陛下」と尊崇するだろうか。皇室を芸能界のようにオモチャにする日本のメディアが、「臀下」と書くだろうということも見えている。(06/02/05)


コラム一覧に戻る