top.gif
title.jpg

平成18年2月22日

            カーリングに学ぶ叩かれ外交術

 1年前の2月から3月は、島根県が2月22日を「竹島の日」とする県条例(3月16日可決)を巡って、韓国で大騒動になっていた。日本大使館へのデモや抗議の自殺未遂、はては地方の一議員がカッターナイフを持って島根県まで押し掛けてきたりした。どこまで本気か分からないが、韓国民がどういう行動をとるかというパターンをよく示していた。

 日本から見れば不思議な話で、韓国が島を実効支配しているのに、それを抗議されると日本人以上に憤激、逆上するのはなぜだろう? やっぱり本心は、日本領土を不法に占拠しているという後ろめたさがあるんだろう、などと考えてしまう。
 しかし、そういう日本的解釈は全く見当外れである。
 
 最近、日本が好感度トップということで話題になった米国メリーランド大学/英国BBCの世界世論調査(33カ国対象)を見ると、韓国民は日本だけでなく、アメリカ、中国、ロシアの全部に対してマイナスの評価、すなわち好感よりも嫌悪感を強く抱いている。こんな特異な国は少ないだろう。

 つまり韓国民は、周辺国に対する警戒感が強く、常に猜疑心を掻き立てることによって、周辺国から叩かれているという自覚を生み出すように行動しているのである。
 日米中ロの4カ国から嫌われ、圧迫を受けているという虚構の心理をつくり出し、その結果として、だから仕方なく、北朝鮮への接近を余儀なくされていると自ら思い込む。

 これと同じようなことを中途半端にやったのが小泉首相である。
 靖国参拝であれほど中韓両国から反発を買うとは誰も予想していなかった。あまりにも中韓首脳の小泉バッシングが強く、また執拗であったため、それが日本国民の思わぬ反感を呼んで、首相への強い支持が生まれた。

 そういう意味では、小泉長期政権を支えたのは中国共産党だといっても差し支えないだろう。中国からヤスクニというきわめてわかりやすい外圧がかかり、それがどんどん強まっていくのに比例して、小泉改革が世論をバックに「抵抗勢力」をねじ伏せて進行していった。ありがとう、胡錦濤さん、多謝!!

 しかし、残念なことに、小泉さんはその外圧を百パーセント国内政争に転用してしまって、外交に使うことをしなかった。これが、中途半端という理由である。

 靖国参拝を特定して攻撃し始めたのは、明らかに敵失なのだから、それに対してはたとえば台湾の李登輝氏(前総統)が自由に来日できるようにする。もう一般人なのだからそれが当然で、日本訪問が自由となれば李氏は自分の意思で必ず靖国神社に参拝する。
 
 それに憤激して中国がさらに外交攻勢を強めるようなら、台湾政府の要人を日本に招待するとか、あるいは日本の外相が公式に台湾を訪問するぞというような対抗策を、あらかじめ中国に警告しておく。

 つまり、向こうのいちばん嫌がることを、こちらも一手打つことが必要なのである。それで相手がさらに強い手を打ってくるなら、こちらにも次の一手があるぞと分からせておく。冬季五輪のカーリング競技でいえば、相手の失投で当てられたこちらの石が、スーっと真ん中に移動していったようなものだ。相手にまずかったと分からせないような外交では外交にならない。こちらが動くことが肝心である。
 
 そうした外交ゲームを小泉首相は知らなかったようだ。小泉さんが意識的に抵抗勢力をあぶり出し、叩かれているイメージを巧みに演出し、国民は内容をよく理解しないまま改革だからいいことに違いないと思い込む。このパターンには、外交政策が含まれていない。だから、政権末期が近づくにつれて、アメリカとの重要な行き違いまで表面化してきた。

 政権基盤の弱いリーダーは、よくグライダーにたとえられる。逆風をうまく利用して浮揚力とするしかないからだ。しかし、向かい風が止まると、間違いなく下降する。悪くすると失速する。向かい風はいつまでも続かない。

 いつまでも吹き続ける、と油断したホリえもんは、墜落した。国際政治史では、旧ソ連最後の大統領ゴルバチョフがそうだった。小泉さんと逆に、外国(西側)からの大きな支持を背景に国内の抵抗勢力に打ち勝とうとしたが、味方のはずのエリツィン(ロシア共和国大統領)に足元をすくわれてソ連邦を解体されてしまった。

 ホリえもんの失脚は小泉政権の終わりの始まりを告げた。新たな抵抗勢力を求めて皇室典範改正を掲げてみたが、これも天の配剤であっけなく手元から消え去った。

 まだ遅くない。グライダーではなく、カーリングに切り替えるときである。(06/02/22)



コラム一覧に戻る