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平成18年3月22日

         偽装は耐震、決算、メールに限らず、報道にも

 世の中、偽装ばやりで、何が本物かを見分けるのが難しくなっている。メディアは偽装を暴き、責任の所在を明らかにする役割を担っているはずだが、そのメディアが率先して事実をねじ曲げた報道をするケースが目立ち始めた。

 これは欠陥マンションなどよりはるかに弊害が大きく、日本人の将来を危うくするほどの危険性をはらんでいるので、以下に2つのケースを確認しておきたい。

 第1は、靖国問題に関して、アメリカ政府首脳までが首相の参拝を批判し始めたという報道が、いろいろなメディアで散見されるに至ったことである。

 この風評の源泉は、今年元旦の毎日新聞の特ダネ(らしき)記事である。大きな活字の見出しに「米政権『靖国』に懸念」とあり、サブに「アジア戦略 日本に見直し要求」と付いている。

 この記事は、年末(12月28日)にマイケル・グリーン前米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を訪ねて取材したことを根拠に、11月20日に訪中したブッシュ大統領が米中首脳会談で「日本にアジア戦略の見直し」、すなわち対中譲歩して参拝をやめるよう要求したという内容になっている。

 こう書くと、変だなということがすぐ分かるはずだ。米中の首脳会談なのに、ブッシュ大統領が日本に対して要求したというのはおかしい。記事を読んでみると、事実らしい記述は「歴史問題について対話の促進を求めた」というたった17字しかない。
 これが中国首脳に対する、対日歩み寄りの要求、であることは明白だろう。

 しかしこの記事は、その17字の前後に「ブッシュ政権が・・アジア戦略の見直しを日本政府に強く求めていたことが明らかになった」、「大統領発言は胡錦濤国家主席ばかりでなく、小泉首相も対象とした強い注文だった」、「米政府は・・・参拝中止に直接言及しないまでも、アジア外交の見直しを迫ることにした」などという表現で、実に5回も執拗に同じことを繰り返している。

 字数に厳しい新聞で、一つの記事中に何度も同じ内容を重ねるのは御法度である。しかし、逆のことをホントらしく思わせようという意図があるから、何度も繰り返して書いたのだろう。
 ブッシュ発言以外は、すべて記者の想像コメント、つまり個人的願望でしかない。こんなものが「元旦特ダネ」(署名入り)に仕立て上げられているのである。

 この特ダネにはもう一つの偽装が施されている。

 記事ではグリーン前部長(知日家で有名)が、「大統領は首相の参拝に口をはさまない」と述べつつも、「やめるのも一つの方法だ」と米政府内にくすぶる参拝反対論に言及した、となっている。
 
 ところが、別枠の「インタビュー要旨」を読むと、「日本は民主国家であり決定するのは日本だ。ブッシュ大統領は他国のリーダーが正しいと判断した物事は批判しない」というところで終わっている。

 明らかにこれでは記者の個人的願望に合わないので、あとは作文を付け加えたということがよく分かる。

 おそらくこの記者は、本社の指示通りの予定稿を頭に描いてグリーン氏に取材を申し込んだ。しかし話がほとんど想定外で使えないので、仕方なく事実はほんのちょっと、あとは作文で事実と逆の印象を与えるような記事を書き上げたのであろう。有能である。

 残念ながら、一般の新聞読者は見出しとリード部分ぐらいしか読まないのがふつうだ。そういう人はこの手の記事の偽装を見抜くことは不可能、というよりもそういう目で見ていない。耐震偽装マンションと同じで、はじめに変だと疑うことを知らないのである。

 簡単に騙されないためには、記事のなかで事実はどれか説明はどれかと考えてみる。事実の記述があり、その説明部分が首尾一貫しているのが当たり前である。整合していない記事は、眉につばをつけて読むようにしたらいい。日本の新聞記事には事実以外のコメントが多い、ということにも気がつくだろう。

 もう一つの実例は2年前、平成16年4月15日に、TBSテレビがパウエル国務長官(当時)にインタビューした報道である。
 会見はたまたま、イラクで誘拐され人質にされていた日本人3人が解放された直後だった。

 そこでTBSワシントン支局長は「日本では、誘拐された3人は自分の意思で危険を冒したのだから自己責任だ、という意見があるが?」と水を向けた。パウエル長官は「より大きな善、よりよい目的のために進んで危険を冒す国民がいるということを、日本の人々は大いに誇りに思うべきだ」と答えた。

 TBSはこの部分だけを取り出して、大々的に「パウエル国務長官ですら3人の行動を讃え、3人を批判する日本人(政府を含む)を非難している」と報道した。あまりに派手な扱いだったので、NYタイムズ紙や仏ルモンド紙まで孫引き報道したくらいだった。

 ところがインタビューの全文をすぐネットで読んでみると、これも偽装だということが誰の目にも明らかだった。

 まず、パウエル長官は3人の日本人が反米、反自衛隊の活動家だということを全く知らなかった。だから「より大きな善(a greater good)、よりよい目的(a better purpose)」というのは、アメリカの戦争目的と同じだと理解していることが分かる。

 さらに長官は、同じ文章で続けて「・・・(同じようにイラクで)進んで危険を冒す兵士たち(=自衛隊)を、大いに誇りに思うべきだ」と結んでいるのだ。
 この部分を、TBS報道は故意に落としていたのである。
 
 これを一文のまま紹介したなら、パウエル長官は、3人の日本人が反米感情に駆られてイラクに入ったことを、知らないで発言したのだと分かってしまう。3人のうちの一人は米軍の劣化ウラン弾を糾弾する高校生活動家だというような事実を知っていたなら、いくらなんでも自衛隊と並べて賞賛するはずはないだろう。

 これはパウエル長官の勘違いという問題ではない。この質問の直前に長官は「小泉首相、ベルルスコーニ(伊)首相、ブッシュ大統領、ブレア(英)首相らがこの種のテロリストに敢然と立ち向かう勇気を持っている」と発言し、イラク戦争の有志連合を誇りにしているのである(米国務省のサイトに全文掲載あり)。

 つまり、これも上のグリーン氏インタビューと同様の偽装報道と言わざるを得ない。予期した答が返ってこないので、都合のいいところだけを取り出して、発言者の意図と逆のインタビューを作り上げたわけだ。有能である。

 両方とも英語能力の不足という事情があるのかもしれない。しかし、あとで録音を聞き直せば間違いは分かるはずだ。したがって、この種の偽装は意図的と言わざるを得ない。TBSの支局長は時の人となり、まもなく本社の報道局長に異例の栄転を遂げたといわれる。

 毎日新聞の「元旦特ダネ」記者が異例の栄転をする条件も整いつつある。小泉包囲網は次第に次期首相候補への牽制に変わってきている。中国や韓国が小泉首相を相手にせず、次の首相に首かせをはめようとしている。それは多くの国民がもう分かっている。
 そこにアメリカの意図まで偽装し決定打にさせようとするのは、相当な高等戦術といえるだろう。ブッシュ大統領が言ったことだと信じ込む日本人が、確実に増えているのだから、、。(06/03/22)

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