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平成18年7月16日

       日本メディアが書けない「連合国」憲章第7章

 国連はもともと米英2カ国の対ナチス「大西洋憲章」(1941.8.14)に起源を持ち、それを対「ヒットラーイズム」の軍事同盟に拡大したものが「United Nations」であった(1942.1.1)。(バックナンバー「国連とはオレのことかと連合国」平成15年3月14日参照)

 連合国はドイツと日本が降伏する前から、ドイツが必ずまた立ち直り、3度目の軍事的挑戦を仕掛けてくるに違いないと考えた。その危険に備えるためには、有効な軍事同盟を維持しておかねばならない。

 今となっては想像しにくい状況だが、当時、実際にドイツ帝国が第1次大戦で壊滅状態になってからわずか20年で、また全欧州を相手に戦争を仕掛けるまでに勃興したという事実が、厳然と重くのしかかっていたのである。

 そこで、米英主導の軍事同盟は名称もそのままに「United Nations」という新機構に衣替えし、5大国が牛耳る「安全保障理事会」という形にした。加えて第1次大戦後の「国際連盟」(League of Nations)を受け継いだ形で、1国1票の「総会」を置いた。

 1国1票の平等制が再度の大戦を防止しえなかったことが証明されているにもかかわらず、新たな「United Nations」がまた総会を1国1票制にしたのは、安保理が軍事同盟として機能するという前提があったからである。

 その軍事同盟を規定しているのが国連憲章の第7章である。しかし日本では一般に、国連は平和的な擬似世界政府だというように刷り込まれていて、第7章(平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動)が軍事同盟の条項だとは夢にも思っていない。

 だから日米が始めから一貫して、北朝鮮のミサイル発射に対する制裁決議案で第7章に言及すべきだと主張した理由を、政府もマスコミも全く説明できないまま推移してしまった。

 第7章を明記することは、とりもなおさず軍事同盟を発動するということにほかならない。しかし日本は国内向けには、決してそう説明することができない。それだけでなく、中国が当初から、第7章に言及するなら拒否権を発動する、と明言している理由も説明できないでいる。

 中国は1950年からの朝鮮戦争で北を支援して参戦し、1961年以来「友好協力及び相互援助条約」を維持している。これには相互の軍事援助義務が含まれている。したがって、国連という軍事同盟の発動を認めたら、北朝鮮との軍事同盟と相容れないので中国が一方的に破棄したということになってしまう。
 旧ソ連も北と同様の条約を結んでいたが、ロシア連邦になってから2000年に軍事同盟の機能を削除した「友好善隣協力条約」に切り替えた。

 日米両国の指導者は、中国が第7章に基づく決議案に決して同意しないと読んでいたに違いない。その上で、中国を追いつめ、北朝鮮との特殊関係を国際的に浮き彫りにするようにシナリオを書いたのではないだろうか。

 ちなみに朝鮮戦争はソ連(と中華人民共和国)の同意の下に、北朝鮮が韓国に奇襲攻撃をかけて始まった。国連は直ちに安保理を開催し、北の侵略を認定した上で、各加盟国に勧告するという形で国連軍を結成した。
 
 これが可能となったのは、当時ソ連が安保理をボイコットしていたために欠席となり、中国の議席は中華民国(台湾)だったという僥倖のお陰である。
 このときは、暗黙のうちに第7章39条の「勧告」が発動されたと解釈されている。
 この39条がいわば前文に相当し、40条が暫定措置、41条は非軍事的措置、そして42条で軍事行動、というように段階が進んでいくようになっている。

 日本時間7月16日未明、安保理は第7章という文言を「安保理の特別の責任」と言い換えた修正案を全会一致で採択した。北朝鮮の国連大使は直ちに、「全面拒否する」と表明した。

 これで、関係者はみな一様に、「51パーセントかそれ以上、我が国が勝った」と評価しているだろう。しかし、厳しく見れば、問題の先送りにすぎないとも言える。北朝鮮がさらにミサイル発射をして見せた場合、次は39条を避けて通れない。

 中国があくまで北との特殊関係を優先させるなら、確実に安保理は麻痺する。また欧米にとってはるかに重要なイランの核開発問題で、ロシアが同じようにイランを擁護して拒否権をちらつかせる事態も予想されている。

 そうした事態になれば、国連という舞台において冷戦が復活することになる。かつてはソ連の拒否権乱発で国連は機能不全に陥った。こんどは中国がロシアを従えて拒否権を振り回し、国連をストップさせることになる。

 誰がこんな国を常任理事国(P5)に引き込んだのだろうか。

 ホワイトハウスにタイムトラベル機があるなら、ブッシュ大統領はパパに頼んで1971年に戻ってもらうといい。そして中華民国、中華人民共和国の両方を只の加盟国とし、代わって日本を安保理常任理事国に据えるようブッシュ国連大使(当時)に働いてもらう。たら、れば、の夏の夜の夢か。(06/07/16)



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