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平成18年10月14日

        核兵器は手段で目的は半島無血統一

 このタイトルだけで言いたいことは尽きている。手段と目的を混同してはいけない。当たり前のことなのに、北朝鮮のことになるとなぜかその区別が分からなくなる人が多い。

 9日朝の「核実験に成功」という北朝鮮の発表後、多くの論評の中で北の最終目的が朝鮮半島の統一であることを指摘したのは、防衛庁の武貞秀士(防衛研究所)主任研究官だけだったようだ。さすがと言うべきだろう。

 当コラムで3年前、「恐るべき北朝鮮用語の『体制保証』」(03/08/31)で警告したように、北の独裁者親子は自分たちだけが朝鮮半島の正当な政権であると自認しており、体制保証とは「統一する権利権限をアメリカが認める」という要求にほかならない。つまり、これ自体が手段であって、究極の目的は統一である。

 3年間のうちに韓国は、指一本で押せば倒れる寸前まで来てしまった。それを象徴しているのが北の核実験である。

 この事情を理解するカギは、盧武鉉(ノムヒョン)という大統領の特異性にある。この人物は前任者金大中の対北宥和政策、いわゆる「太陽政策」をさらに拡大推進し、1千億円ともいわれる資金と援助物資を送り続けた。北はその援助で核開発を急いだ。通貨の価値(使いで)としては十倍に相当すると見るべきだろう。

 その一方で、日本に対しては歴史認識や竹島で北風を送り続け、アメリカとは駐留米軍をまるで占領軍のように扱って対立し、さらに中国との間にも歴史認識で高句麗論争を繰り広げた。
 そうすることによって韓国民の誇りを刺激し、よく言えばナショナリズムを高揚させ、自分への支持を高めさせようとしたのだろう。しかし、それが北との一体感を高め、同時に北への警戒感を薄めさせ、統一への恐れをタブー視する効果を生み出すに至った。

 そういう変化が北の独裁者の目にどう映るか、盧大統領は全く想像しなかったのだろうか。9日に訪韓した安倍晋三首相が、北の核実験を非難する共同声明を提案した際、大統領は無視して日本の歴史認識を40分も攻撃し続けたという。

 この愚かさが事態の展開を左右することは疑いない。金正日独裁者は次の一手として、おそらく盧大統領を平壌に招待するシナリオを考えているだろう。
 招待されれば、大統領自身が渇望していたことだから、大喜びで飛んでいくだろう。もともと7月に金大中・前大統領が先触れで訪朝するはずになっていたが、ミサイル発射で頓挫したままになっている。

 さて平壌で大歓迎され舞い上がった盧大統領に、金独裁者は「まず南北で連邦を形成し、早急に自由選挙で統一大統領を選ぼう」と提案する。そうすれば人口で二倍の韓国大統領が当選するんだよ、という誘いである。「早急に」というのは、盧大統領の任期が08年2月に終わる前にという甘い餌である。

 さらにもう一つ、決定的な餌を投げる。「統一大統領に当選すれば、あなたの手で核兵器を解体し開発計画を廃棄することができますよ。それまで我々は核実験を凍結します」というくせ玉である。
 
 この誘いを断ることはできない。断れば、北は「やむを得ず核武装に邁進する」と言うに違いない。その責任は盧大統領にあるという口実を与えることになる。
 
 盧武鉉大統領は金正日国防委員長の提案を共同提案の形にして合意し、世界に発表する。それで今回の危機は終わりになる。南北が統一のための自由選挙に合意した以上、日米中露、どこの国も反対はできない。米軍は中立となり、駐留の解消に向けて動き出すしかない。核実験とミサイル発射は実施されないので、周辺国はケチをつけることができない。

 シナリオの骨子は以上の通りである。バリエーションはいろいろ考えられるだろうが、似たような先例がポーランドにあることを知っておいた方がいいだろう。

 第2次大戦の戦後処理を三か国で勝手に取り決めたヤルタ会談(1945年2月)で、ポーランドを取り返そうとする英米(チャーチル、ルーズベルト)と抵抗するソ連(スターリン)は、ドイツ敗北後にポーランドで自由選挙を実施し、ポーランド国民に自国の将来を決めさせるということで折り合った。
 しかしポーランドを軍事力で抑えていたソ連は結局、自由選挙の約束を無視して共産党独裁の政権を確立し、そのまま冷戦終結まで衛星国として従わせることになった。

 このときのソ連の軍事的支配に相当するのが、現在の北朝鮮の核兵器だとすれば、自由選挙の約束が実行されるかどうか、おおよその見当がつくのではないだろうか。

 民主主義国の基本である自由選挙を、そうでない相手から逆に提案されると実に始末が悪いということが分かるだろう。そういう事態にどう備えておくべきか、日本にとっても他人事(ひとごと)ではないのである。(06/10/14)


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