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平成19年2月27日

            潘事務総長を出した韓違い?

 国連信仰と揶揄される日本人でも、さすがに事務総長は大国のポストではないと知っているので、アナン氏の後任を狙うべきだという声は聞かれなかった。韓国が潘基文(バン・キムン)外相を出馬させたのは、自ら大国でないと認めたからだろうか?

 韓国は日本の常任理事国入りには断固反対の立場を貫いているから、そのためにはあえて小国宣言と引き替えにでも事務総長ポストを獲得しようとしたのかもしれない。

 とにかく結果的には有力候補がいない中で潘氏が残り、常任理事国の拒否権も行使されず、第8代の事務総長を初めて分断国家の片方が出すことになった。なぜ、米英仏ロ中のどの常任理事国も反対しなかったのだろうか。

 答えはおそらく「誰も国連に幻想を持たなくなった」からであろう。

 事務総長(Secretary-General)は偉そうに見えるが憲章上は「行政職員の長」にすぎず、肝心の国連の存在意義に関する任務では「国際の平和及び安全を脅威すると認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができる」とされているだけである(第99条)。
 ちなみに日本政府は昔から、この単なる事務長を外交儀礼では首相待遇と決めている。

 さて、今年初めから事務総長に就任して約2ヵ月、潘氏が悪戦苦闘している様子がニュースから伝わってくる。それも無理ないことで、過去の事務総長と比べれば、あまりにも後ろ盾がなさすぎるのだ。それでも出馬させたというところに韓国独特の過剰な自意識が見て取れる。

 前任のコフィ・アナン氏はガーナ出身で、生粋の国連官僚だった。アフリカ出身だからアフリカ大陸の50数ヵ国が自然の後ろ盾になる。アフリカ連合(AU)という地域機構もある。それだけでなくミッションスクールを出てアメリカに留学し、学部と大学院(MIT)を出ている。夫人はスウェーデン人で貴族という噂さえある。おそらく夫妻ともクリスチャンだろう。

 アメリカは、その前任のガリ氏を1期で追い出す代わりに、同じアフリカ出身のアナン氏を積極的に推した。それで慣例としては2期10年のところ、米国政府がアナン氏の再任を認め、2人のアフリカ人が合計15年務めたわけである。

 第6代のブトロス・ブトロス=ガリ氏はさらにものすごい後ろ盾を抱えていた。エジプト人だからアフリカ勢に加えてアラブ連盟23ヵ国、イスラム諸国会議57ヵ国が自然の応援団となる(重複含む)。
 加えて本人はキリスト教の一派であるコプト教徒であり、夫人はエジプトに古くから住むユダヤの名家出身という多彩さ。
 さらにフランス留学組でフランス人脈があり、事務総長にはフランスが強く推薦した。祖父は20世紀初頭のエジプト首相で、本人もサダト大統領に引き立てられて副首相兼外相を務めた。
 
 もうこれ以上のバックを持つ事務総長は今後も現れないだろうというほどの華麗さだ。
 もっともそれが自信過剰になって、就任早々、アメリカの国連支配に公然と反旗を翻し、自ら落とし穴にはまるという5年間になった。
 従来の平和維持活動(PKO)を根本から改変し、独自の指揮権を持つ「戦う国連」を実現させようとした。一時は歴史上初めて米軍の指揮権をブッシュ・パパ大統領から取り上げ、ソマリアでさんざんな目に遭わせるという事態に発展させた。
 同時期に旧ユーゴのボスニア内戦などでも国連部隊を実戦の危険にさらさせた結果、再選はアメリカの1票(拒否権)で拒否されてしまった。

 結果的には失敗に終わったが、ガリ事務総長の壮大な国連掌握の試みは、彼自身に強大な応援団がついていたからこそ立案実行が可能だったのである。

 その前任者、第5代のデクエヤル氏はペルー出身で中南米30数ヵ国が応援団、第4代のワルトハイム氏は中立国オーストリア出身で欧州諸国がバックについていた。

 これら前任者たちに比べ、潘基文氏には何のバックもついていない。アジアから出す番だといっても、積極的に応援する地域機構も同盟国もない。初代リー氏(ノルウェー)、第2代ハマーショルド氏(スウェーデン)、第3代ウ・タント氏(ビルマ)のような中立国の伝統に戻るわけでもない。
 なんにもないのである。よくこれで事務総長を目指したものだという気が改めてしてくるだろう。自国が孤立していると批判したがる日本のメディアにとって、これは孤立に見えないのだろうか。

 ブッシュ政権は任期が終わるあと2年弱の間に、国連をできるだけうまく使いたいと考えているに違いない。日本は非常任理事国を退いたばかりで、安保理復帰は再来年以降になる。
 この状況を踏まえて、国連外交にどう再チャレンジするか、本気で考えている人が日本にどれだけいるだろうか。

 カーター元大統領のように退任後に外交に目覚めた例もある。小泉前首相を特使としてワシントンに派遣し、しばらく住んでもらったらどうだろう?(07/02/27)


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