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平成19年8月29日

        中国に軍事費を無駄づかいさせる方法

 「位打ち」(くらいうち)という高度なテクニックがある。日本の歴史には多くの例が見られ、効果も証明されている。日本人の得意なソフトパワーとして認識を新たにし、国の外交戦略に活用したらどうだろうか。

 いちばんよく知られているのは源義経と木曾義仲が後白河法皇から位打ちされ、メロメロになって自ら滅びてしまったという事実だろう。官位を授けられるだけで、ひとは変わってしまうものらしい。頼朝はそれを警戒して、勝手に官位を受けてはならないと禁じていたのだから、兄弟相争わせるという目的は最大限に達せられたことになる。

 豊臣秀吉は、関白(公家の最高位)を授けられ、次いでそれを秀次に譲って、自らは太閤(さきの関白という意味)と称した。その結果どうなったかは言うまでもない。豊臣家は一人残らず根絶やしにされた。

 その前の織田信長は、右大臣までは人並みに位打ちを受けていたが、そのあとは警戒して、関白や征夷大将軍など望み次第と持ちかけられても、全部蹴飛ばしたと言われる。そのおかげで、子孫は今日まで続いている。

 外交戦略に生かす場合、ちょうどいい相手とテーマが、最近、浮かび上がってきた。具体的には中国海軍が、本気で空母艦隊の保有を志向し、ゆくゆくは太平洋の半分を米軍から奪い取りたいと考えているらしいことである。

 それならば、どうぞおやり下さい、何なら手伝ってあげますよ、というのが日本の高度な外交テクニックになりうるのではないだろうか。

 去る5月にキーティング米太平洋軍司令官が訪中した際、中国海軍首脳が空母に多大の関心を示したことが知られている。一部では、キーティング司令官が協力を申し出たと伝えられたが、実際には「我々の経験からしても容易ではないよ、it ain't as easy as it looks.」と繰り返し警告している。
 
 それでも、中国側は好意的な反応だと勝手に解釈したからこそ、逆の意味の誤報になって世界に流されたのだろうと思われる。

 それほど、中国軍(の一部)ではかねてから空母にあこがれを持ち、旧ソ連とオーストラリアから中古ないし未完成の空母4隻を買い入れている。そのうち3隻はスクラップか展示用にしかならなかったが、未完成だった「ワリヤーグ」(6万トン弱)だけは大連で着々と追加工事を施され、来年にも実証試験用の空母として姿を現すと予想されている。

 7月末にカナダの民間研究機関が発表したところによると、中国はすでにロシアから、艦載機の着艦制動システムを4セット購入したという。また8月には北京からの報道で、艦載戦闘機のテスト機を10機ほど、これもロシアに発注したという。

 艦載機となる予定のスホイ33型を、中国は少なくとも50機、計25億ドルで購入するとか、発注したいう情報もある。

 では、1艦隊を整備するのに、いくらぐらいかかるだろうか。そこが、まず難関である。空母はイージス護衛艦と違って、単艦で考えることができない。艦隊を常時機動させておくには、主力の空母が予備と整備中を含めて3隻必要となる。付随するミサイル艦艇と原潜にも予備が必要だから、当初の艦隊整備に天文学的な費用がかかるだけでなく、すべての装備を絶えず更新していく予算を確保し続けなければならない。
 日本が持つとしたら、艦載機を別として、1空母艦隊でも現在の海上自衛隊の全予算をオーバーすると言われる。

 つまり、旧ソ連でさえコストと技術の両面から持ち得なかった空母艦隊を、中国が持とうとしているのであれば、「どうぞ、どうぞ、中国さんならやれますよ」「日本もアメリカも、決して反対はしませんよ」「中国のような大国なら空母を持つのは当然です」といって、提灯つけてやるのが上策ではないだろうか。すなわち「位打ち」である。

 空母保有計画を推進すればするほど、中国軍の中で予算配分が変わっていき、不満が高まっていくだろう。そこで、頼朝兄弟間の軋轢のように分裂が促進され、さらには、軍事費の確保に対する民間部門の不満も高まっていくだろう。

 その結果、中国全体の統一性は失われることになり、空母は旧ソ連と同じ道を辿ってスクラップにされるだろう。

 日本には何ができるのか? 中国が飛び付く「官位」はあるのか?

 実は、空母の技術面で最も難しいのは着艦ではなく、離艦装置なのである。旧ソ連も英国もフランスも、自前で着艦装置は開発できた。しかし、蒸気カタパルトで数十トンの機体を放出する離艦技術は、今でも米軍だけが抱え込む専売特許となっている。
 
 その技術を、戦前から空母を手がけた経験のある日本は、「なんとかなりますよ」とちらつかせることは可能だ。中国が喉から手が出るほど欲しい技術である。
 他にも、海軍に関する技術とノウハウは、明らかに中国海軍より数十年の長がある。教えを請われれば教えてもいいし、その見返りに、原子力潜水艦のデータを受け取るという方法もある。日本が原子力推進のノウハウを入手するには、「格下」の中国からでもいいのではないだろうか。

 もちろん、どんなシナリオを書いてみても、太平洋の半分が中国の支配下に入る心配はないのでご安心を、、。(07/08/29)


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