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平成19年12月29日

       防衛汚職を生んだ過度の武器輸出禁止政策

 防衛省事務次官による長年の汚職継続は、武器輸出三原則という欺瞞の政策に遠因を求めることができる。

 知る人ぞ知る。しかし、それを遠回しに指摘したのがボーイング・ジャパンの前社長ロバート・オアー氏だった上に、インタビューを掲載したのが、とりわけクラスター爆弾など対人兵器を目の敵にしている毎日新聞だったので、余計にその囲み記事が目を引いた(12月17日朝刊)。

 オアー前社長は、ボーイングの戦闘ヘリ「アパッチ」は米国で1機3千万ドル(約33億円)だが、日本ではライセンス生産しようとしたため、1機2億ドルを超えてしまったと数字を出している。
 実際、防衛庁がこれまでに調達した10機の価格は60〜83億円だったが、わずか13機で打ち切ることになったため、生産設備などの減価償却分を残りの3機に乗せる必要が生じ、1機216億円と跳ね上がった。

 さすがにこのバカらしさが報道されたあと、財務省は来年度予算では認められないと通告せざるを得なくなった。

 オアー氏は、日本が「兵器のライセンス生産に頼りすぎている」からこんな事態に追い込まれるのであり、その無駄な防衛費を当てにする防衛産業や商社と防衛官僚が癒着する構図が生まれる、と言っているのである。

 ではなぜライセンス生産にこだわるのか。もちろん、そうしないと兵器の技術を維持できないし、防衛産業自体が縮小し続けるからだ。

 そういう悪循環を作り出したのが、「武器輸出三原則」という政策である。憲法による制約でもなんでもない。理屈では説明できない自虐的自粛の最たるものだ。

 佐藤政権時代の1967(昭和42)年に打ち出された三原則は、@対共産圏、A国連の武器禁輸決議の相手国、B国際紛争当事国またはその恐れのある相手先、の3カテゴリーには武器を輸出しないというものだった。
 これは、現在でも通用するような基準であって、それなりの合理性を持っていたと言えよう。

 しかし、その9年後の76(昭和51)年に、三木政権が何を思ったか、3カテゴリー以外への武器輸出を「慎む」、かつ武器製造関連設備も武器に準じた扱いとすることにエスカレートさせ、事実上、武器輸出は完全禁止にされてしまったのである。

 これほど愚かな「政策」決定はめったにないだろう。この禁止令で「武器」とは「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」と定義されている。
 しかし、自粛は官僚の裁量によって際限なく強められていく。絶えず自己の権限を拡大しようとする習性があるからだ。

 最近では、ボーイング767旅客機の胴体部分を製造する日本企業が、窓のない貨物専用767の胴体パネルを受注したが、それだと軍用の貨物機に転用される「恐れ」があるとして、行政から待ったをかけられたという例がある。
 この話は、日本側で窓を開けて輸出し、ボーイング本社はそれをまた塞いで完成機にしたと伝えられている。

 同じように、海賊被害に悩む東南アジアに中古の巡視船を供与する案が浮上したが、相手国が軍の用に供する「恐れ」があるということで、結局は立ち消えになってしまった。消防用に引き合いの多かった水陸両用艇US-1も同じだ。

 「恐れ」や「可能性」を理由にするなら、日本製の小型トラックはすべて輸出できないはずだ。中東やアフリカの紛争地域で、非正規兵が日本ブランドの小型トラックの荷台に重機関銃を固定して、走り回っている映像をよく見かける。つまり、テロリストや私兵に売るのは野放しで、彼らと戦う政府軍には頼まれても売ることができない。これほどバカな話が他にあるだろうか。

 同じように、日本は「民生用」のライフルと散弾銃の主要輸出国である。国内では銃所持の規制を強化せよなどと騒いでいるが、実は「小型武器」という国際定義で世界第9位の輸出国にランクされているという(2004年)。
 現に、大手メーカーのホームページでは、米国市場で同社の上下二連銃はシェア40%だと誇示している。

 民生用であればいくらでも輸出でき、それが相手国でどんな犯罪に使われようと売る方の関知するところではない、しかし取り締まる側には自粛して売らない、というのである。

 この超弩級の矛盾を解消するのは非常に簡単であって、憲法改正とも集団的自衛権とも関係ない。政策の変更ですむ話である。すなわち、佐藤政権の当初の三原則に帰ること、そしてその第@項を「国連加盟国の正規軍または准正規軍以外の場合」というように変更する。AとBはそのままでいい。

 この新三原則で、世界の常識に戻ることができる。アメリカにだけは武器「技術」を供与できるとか(中曽根内閣)、ミサイル防衛(MD)についてだけ共同開発・生産を例外とするとか(小泉内閣)、小手先の修正で対処する必要もなくなる。
 民主党の小沢一郎代表はもともと国連決議を錦の御旗と考える立場だから、国連決議に基づき、かつ自主的な政治判断に従って、外国の「軍」に対し武器、技術、製造設備、共同研究・開発を提供できるというのは、何の反対もないはずだ。

 オアー氏の言うように、直ちに戦車やミサイルを輸出するのではなく、「部品の輸出や多国間の共同開発に道を開かなければ、自国の防衛産業を健全に育てることはできない」。
 そうしないなら防衛汚職の種は永遠に尽きまじ、という警告である。(07/12/29)


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