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平成20年2月28日

          マイノリティが大統領になる難しさ

 米大統領選挙の予備選が終盤に入っている。共和党の候補は事実上マケイン上院議員に決まったが、民主党では2人のマイノリティ(少数派)が接戦を繰り広げている。

 現職のブッシュ大統領が2期8年間と長く、しかもイラク戦争で人気を落としたため、次は民主党に政権が移る可能性が強いと一般には予想されてきた。しかし、民主党がマイノリティの候補を本選に送り出すことが確実になった以上、この「常識」はご破算にしないといけないだろう。

 マイノリティが大統領選挙で勝つ可能性は、きわめて低いのである。アメリカの歴史で、今までたった1人しか実現していない。それがIrish Catholicのケネディ大統領である。
 アイルランド系というのは19世紀半ば、解放された黒人から見下されるほどの最下層移民であり、またカトリックはプロテスタント原理主義者が拓いたアメリカの歴史では、同じキリスト教ではない異教徒と見られてきた。

 そういう歴史を強引にはねのけた形で、ケネディは1960年に民主党候補になり、本選で第35代大統領に当選したが、3年後には暗殺されてしまった。

 暗殺の真相は明らかとは言えないが、その後、半世紀近くも2大政党からマイノリティの大統領候補が出ていない。そこがミソである。国民の多くが何らかの関連性を感じ取っているからであろう。

 その裏付けとなるのが、ケネディよりさらに32年も前の1928年、民主党がアメリカの歴史上初めて、Irish Catholicを大統領候補として指名していることである。この候補アルフレッド・E・スミスは、ニューヨークに上陸したアイルランド系で、貧民街から身を起こして州下院議員となり、やがて州知事に上り詰め、4期目を務めているところだった。実績では誰も匹敵する者はおらず、1920年の党大会から注目される存在だった。

 しかし、いざ選挙戦が始まると、スミス候補はカトリックであることを徹底的に攻撃され、共和党のフーバー候補に大差で敗れてしまった。選挙人獲得数では87vs.444と惨敗し、民主党の固い地盤であったテキサス、ノースカロライナ両州も奪われた。スミスの地元であるニューヨーク州でさえ、彼を勝たせなかったのである。

 この2つの事例は、米国民が大統領に対して、州知事や上院議員などとは違った条件や資質を求めていることを、物語るものだろう。

 黒人のバラク・オバマ候補と女性のヒラリー・クリントン候補は、どちらも2大政党の大統領候補としては史上初ということになる。それだけでも歴史に名を残すことができるだろう。
 ちょうど80年前のスミス候補はほとんど忘れ去られたが、オバマ氏はまだ若いので次のチャンスがあるし、ヒラリー女史にはファーストレディとしての実績がすでにある。4年後の再チャレンジはないだろう。

 黒人候補の基本的弱点は、いうまでもなく人口比で12パーセント強しかなく、多数派からの潜在的反発が予想される点である。

 一方、女性は人口比で半分はいるが、歴史的に見ると選挙権を得たのが1920年と遅く、究極のマイノリティとも呼ばれている。知事や議員と違って大統領は、世界最強の米国軍の最高司令官でもある。あえて女性を「推戴」しようという男性有権者がどれだけいるだろうか。

 また逆に、女性大統領は侮られまいとして、強い権力を追求するのではないかという恐れを持たれるかもしれない。かつてのサッチャー英国首相のように、アルゼンチンとのフォークランド戦争まで辞さなかった実例が思い出される。

 したがって、民主党の候補がどちらに決まるかにかかわらず、共和党のマケイン候補が基本的に有利になったと言えるだろう。マケイン氏が高齢なところからして、若手で保守派にも受けのよい副大統領候補を見つけた場合、本選の行方は共和党に傾くと予想される。

 逆に民主党の方が意外性を持った副大統領候補を決めた場合は、最後まで幸運の女神が迷い抜くことになるだろう。(08/02/28)



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