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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.108
     by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成20年6月8日

         続・マイノリティが大統領になる難しさ

 ヒラリー・クリントン候補がようやく敗北を認め、東部時間の7日、バラク・オバマ候補への一本化を訴えた。

 女性が大統領になることはこれほど難しいのか、2大政党の候補にすらまだなれないのかというような、つまり「ガラスの天井」と言われる目に見えない女性差別を指摘する感想も聞かれる。

 しかし、この件はそういう一般論とは少し違うだろう。ヒラリー女史は今年初め、各州の予備選が始まる直前には、自分がガチガチの本命だと信じて疑わなかったはずだ。夫のビル元大統領もそう確信していたであろう。

 ヒラリーは挫折を知らないエリートだった。結婚前に弁護士として全米トップ200人に選ばれたほどの実績を持ち、夫が州知事に、そして大統領にまで出世する過程では、常に「夫婦で1人前」「事実上の副大統領」などと賞賛(もしくは陰口)されたものだった。

 したがって、ヒラリー自身もスタッフ陣も、女性幹部がなかなか重役、社長クラスに昇進できないというアメリカ社会の実情など、頭の片隅にもなかったに違いない。

 ヒラリーの誤算はどこに原因があったのか。ハッキリ分かっていることは、ヒラリー陣営が資産と考えた過去の実績が、実は負債であったことだ。
 ファーストレディとして8年間、リベラルなニューヨーク州から上院議員に当選して2期目という「ウリ」が、却って古いタイプのワシントン政治屋族ではないかという攻撃の的になってしまった。

 夫の元大統領が応援に駆け回ると、逆に票が逃げるという現象が生じた。ヒラリーが劣勢にめげず最後まで勝負を捨てなかったのは、議員仲間と各地の民主党幹部である特別代議員約800人が、予備選の最終局面で自分についてくれると期待していたからだった。
 しかし、彼らの多くはヒラリーと同じ穴の狢(むじな)と見なされることを恐れ、次第に日和見に転じ、そして最後には雪崩(なだれ)を打ってオバマ支持に集結した。

 撤退を決意する直前のヒラリーの心境は容易に推測できる。「マイノリティの黒人候補では本選に勝てないということがどうして分からないのかしら。わたしなら少なくとも五分に戦えるのに」と、オトモダチの離反を嘆いたことだろう。

 たしかにヒラリー/オバマの正副大統領候補が実現していたら、民主党にとっては文字通りのドリームチームとなり、共和党といい勝負になったかもしれない。しかし、オバマ候補が緒戦に勝ちすぎたため、すべてがぶちこわしになったとも言える。先頭馬が2番手の要求に屈して副大統領候補を受諾するわけにはいかない。

 オバマ候補にとっても、史上初の黒人副大統領になったほうが、4年後、8年後に自然な勢いで「副」が取れる道が開ける。そうならなかったのは、やはりマイノリティが大統領になるのは非常に難しいという大原則が働いているからである。

 それではオバマの副大統領候補は誰になるか注目されるところだが、ロイター通信は有名無名を含めて12人の名前を挙げている。ヒラリーを含め半数は上院議員だが、大統領候補も上院議員で、しかも行政や外交の経験がないところから、副大統領候補は実績のある州知事が選ばれるという見方が有力だ。

 ロイターのリストに限ってみれば、ヒスパニック系で外交にも経験の深いリチャードソン・ニューメキシコ州知事(元国連大使)、女性のセベリウス・カンザス州知事などが目につく。共に60歳。

 共和党の方でもマケイン候補が上院議員かつ外交軍事通なので、副大統領候補には経済・内政に強い州知事を物色中だ。

 今回、両党の「副」候補探しの特徴は、両候補とも任期を全うできるか、また2期目があるかどうか誰にも分からないという不透明性にある。特に高齢のマケイン候補は、いつでも大統領に昇格しうる「有資格者」を指名しておきたいと考えているだろう。
 
 黒人女性のライス国務長官、インド系で36歳のジンダル・ルイジアナ州知事などの名も取り沙汰されているが、オバマチームを意識した意外性や集票力よりも、予備選のライバルで元実業家のロムニー・前マサチューセッツ州知事などが有力とされるゆえんである。(08/06/08)


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