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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.114
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成20年10月22日

        日米仲良く左傾した民主党とメディア

 奇妙な情勢になってきた。米大統領選挙が目前に近づいた現在、オバマ民主党候補が勝つ場合には地滑り的大勝利、マケイン共和党候補が勝つ場合はスレスレの辛勝になると予想されている。

 日本でも総選挙が数ヵ月内にあるはずだが、民主党が第1党になる可能性がかなり高いという予想が出ている。参議院はすでに民主党が第1党である。

 さて、日米でそうなってきた理由はまったく違うのに、結果として2つの「民主党」がいつの間にか驚くほど左傾化した足並は共通している。いったい何が起きているのだろうか。

 今年初め、米国で予備選が始まったとき、民主党の本命はヒラリー候補であり、オバマ候補は3番手以下と目されていた。しかし大手メディアは、本命でないことに安心して、わざと黒人の若手候補をもてはやすという行動に出た。
 
 よく言えば、リベラルなメディアであることをそれとなく宣伝するための営業手段だった。非難すべきではないかもしれないが、それが行き過ぎてダークホースが先頭に躍り出、ヒラリーを何馬身も引き離して民主党候補に指名された。

 こうなると、メディアのほうでも功名争いが始まり、こんどは本気でオバマ候補に肩入れし出す。最後は伝統的に共和党候補を推薦してきた地方紙まで、勝ち馬に乗ろうとしてオバマ支持を打ち出した。

 大手でないFOXテレビや一部の識者は、メディアが不当にオバマびいきであり、オバマの過去の行動に数々の疑惑があるのにと指摘したが、国民の耳にはほとんど届かなかった。

 オバマ候補は名門大学出のエリート弁護士といわれるが、職歴は逆に市民運動家のそれであり、極左とつながる反体制組織との関係もあった。州議会議員、連邦上院議員としての投票実績も、典型的なリベラルだった。

 つまり、レーガン大統領の前に多数派だった社会主義的「大きな政府」を理念とする政治家の一人であり、その中でも左に寄った社会運動家であることは間違いない。

 1930年代のニューディール政策から始まる「大きな政府」の流れは、半世紀後のレーガン政権によって葬られ、レーガン/ブッシュ共和党12年のあとのクリントン民主党政権も、事実上、共和党亜流の「小さな政府」政策を継承した。

 したがってアメリカ社会の本流は、たとえ民主党が政権を取り返したとしても、基本的には変わらないと予想されていた。それをいきなり大きくひっくり返したのが金融危機の勃発である。

 選挙直前の10月に起きる大事件を「オクトーバー・サプライズ」というが、これは歴史上類を見ないほど超特大のサプライズとなった。

 米国の金融システムが機能停止に陥るのを防ぐためには、日本の前例を参考にして公的資金を金融機関に、大量に注入しなければならない。しかしそれは税金による私企業の救済であり、時代を全く逆転させることを意味する。

 これでオバマ候補は決定的な支援を、攻撃相手の現政権から得たことになる。こんな矛盾を誰が事前に予想し得たであろうか。

 ひるがえって、日本の民主党にとって金融危機はサプライズというほどの追い風にはなっていない。しかし、実態が国民によく知られていないのに、メディアがいつの間にか政権交代間近という期待を盛り上げたという意味で、オバマ現象とよく似ていると言えるだろう。

 メディアが政府や政権をメチャクチャに叩き続け、対照的に野党を強力に支援するという図式は、かつてのベトナム戦争末期と、現在のイラク戦争後に、日米共通して強まっている。小泉後の安倍、福田両首相がそれぞれ1年で政権を投げ出し、また麻生首相に対するバッシングも明らかに加速しているのは、単なる偶然ではないだろう。

 「民主党に一度やらせてみたら」というような一種の諦観は、米国でのオバマ政権期待よりはるかに危険度が高い。

 民主党では小沢一郎代表、鳩山由紀夫幹事長などが旧自民党だが、旧社会党系の左派組合組織をバックにした勢力も依然として強力だ。

 参議院では日教組のドンといわれる興石東議員会長が第1党のリーダーとして君臨している。この事実に国民の目を向けさせようとする焦りで、就任したばかりの中山成彬国交相が所管外の日教組非難を敢行し、あえなく辞任となった。

 年金不祥事の社会保険庁職員などが所属する自治労はもっと強力で、昨年7月の参院選挙では、組織内候補を比例でトップ当選させている。比例の上位当選はほとんどが巨大労組系の候補で占められているのが実情だ。

 代表代行の菅直人元厚相は市民運動出身で、オバマ候補と共通の政治歴を持っている。また小沢代表自身が国連至上主義論者で、党としても最終的な安全保障は日米安保でなく国連に依存すると発表している。

 皮肉なことに、オバマ政権ができて、上下両院でも民主党が支配力を強め、財政主導の政策を次々に繰り出して米国経済を立て直してくれるほうが、日本にとっても歓迎すべき展開なのだ。

 その場合、日米のメディアはどういう行動をとるだろうか?

 日本で民主党政権ができて、公表しているような政策を展開していったら、どういうことになるだろうか。メディアはどういう行動をとるだろうか?

 両国のメディアは少数の例外を除き(日本では産経新聞?)、同じように無責任な行動を加速させてきた。そのあげく、アメリカでは「結果オーライ」、日本では「お先マックラ」となる公算が大だ。誰に責任があるのか。誰か責任を感じている人はいるのだろうか?(おおいそ・まさよし 08/10/22)


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