top.gif
title.jpg
国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.116
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成20年12月22日

          最優先課題は皇室の補強

 4ヵ月前のコラム「総理の自覚に待つ象徴天皇の『事績』」の続きになる。
 今月9日、政府は来年11月12日に今上陛下在位20周年の祝賀式典を執り行うと決めたが、同じ日に医師団が天皇の体調不良を公表し、11日には宮内庁長官が異例の「所見」を表明した。

 お身体の具合は、ストレスが原因とみられる不整脈と胃・十二指腸の炎症と発表されたが、政治家の病気と同じで実際にはそれだけでない可能性もあるだろう。前立腺がんとの闘いはすでに5年に及んでいる。

 しかし病気自体が問題なのではない。もっと重要なことに目を向けてほしい、と宮内庁長官の口を通して発言されたのだと理解すべきである。

 羽毛田信吾長官は発言の冒頭で、陛下のストレスの原因として「常に心を離れることのない将来にわたる皇統の問題」をまず指摘している。そのほか皇太子ご一家の健康問題などにも言及しているが、重要性の軽重は自ずから明らかだろう。

 2年前、秋篠宮家に悠仁親王が誕生され、一気に皇室典範改正問題が消し飛んでしまった。女系女性天皇容認論は完全否定ないし意味を失った。

 しかし、だからこそ、時の首相はこの機をとらえて皇室典範改正に踏み切るべきだったのである。目的はただ1つ、「皇室の補強」である。

 いま皇統を受け継ぐ有資格者は皇太子、秋篠宮、悠仁親王の順になるが、悠仁殿下が皇位を継ぐ頃には、他の皇族中に男子が一人もいないことがほぼ確実だ。それどころか、宮家がどれだけ存続しているかもわからない。

 したがって将来の悠仁天皇の後継者を数人確保する準備を、今からしておかなければならないのである。

 幸いなことに、この難問の答は皇室の側からとっくに示されている。ひげの殿下こと三笠宮寛仁親王や旧竹田宮家の竹田恒泰氏(明治天皇の玄孫)などが3年前、「各宮家が養子を迎えることを可とする」「その養子は1947年に皇籍離脱した11宮家の男系男子に限る」というようにすればいいと提案している。

 実際に、その適格者は数人いるという。すなわち皇籍離脱後も男系を続けて現在に至る男子は、皇室の男性メンバーと同じ遺伝子(Y染色体)を有しているのだから、皇室の外に出ていること自体が異例ということもできる。

 異論はもちろんあって、旧皇室典範では「臣籍降下」した皇族が皇室に戻るのを禁じていたとか、民間人が皇室に戻って天皇にまでなるのは釈然としないというようなことが言われる。

 そこで新たな提案として、もう1つの条項を付け加えたらどうだろうか。すなわち、「養子として宮家を継いだ皇族は、原則として自身は皇位継承者とならない」ことにする。つまり、その養子の夫婦に生まれた男子が継承順位に入るということにすれば、反対論のほとんどは消えるだろう。

 そういう皇室典範改正が実現すれば、すでに断絶した秩父宮家、高松宮家の再興を始め、夫妻のみの常陸宮家、女性のみの高円宮家、寛仁親王で男系が終わる三笠宮家、独身病弱の桂宮家、の6宮家全部が存続できる可能性が出てくる。

 逆に改正しない場合の皇室を想像してみたらいい。そして養子殿下の子(男子)が成人する年月を考えれば、この改正が急務であり、なによりも我が国の最優先課題であることがわかってくるはずだ。

 実妹が寛仁親王妃である麻生首相は何をしているのか、と第125代天皇は言外に叱責したかったのではないだろうか。

 未曾有の金融恐慌に直面していることは事実だが、経済が破綻しても国が滅びることはない。直近のアイスランドがいい例だ。かつてイタリア、アルゼンチン、ロシアなど多くの国が財政破綻したが、国はなくなっていない。

 政府の根本的な責務は安全保障と国の存続である。領土領海を侵されて何もしなければやがて国がなくなる。日本の全歴史を通じての象徴であり、国内的にも対外的にも最大のソフトパワーである天皇と皇室をかえりみないなら、やがて国の顔がなくなり身体も死ぬだろう。

 何が最優先課題かということを、麻生首相も与野党政治家も、そしてメディアも国民も、一度あたまを冷やして考えてみてはどうだろうか?(おおいそ・まさよし 08/12/22)

コラム一覧に戻る