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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.118
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成21年2月26日

          同じタイプのケネディ、小泉、オバマ

 オバマ米大統領の初めての施政方針演説をCNNで「見聴き」したが、改めて同氏が「理念型」の大統領であることを確認した。

 その意味では同氏が私淑するリンカーンではなく、史上初のマイノリティー(少数派)大統領J・F・ケネディと共通する要因が多い。

 ケネディは歴史的に下層移民とされたアイルランド系カトリックでありながら、国民的人気が高く、誰からも愛される人柄だった。ハーバード大の学歴と人脈が強み。しかし政治歴は浅いので党内基盤が弱く、また知事や閣僚などの行政経験も皆無だった。思想的にはリベラルで、保守派には警戒されていた。

 これらはすべてオバマ大統領にも当てはまる。自分の弱点の多さをカバーするためには、国民的人気を背景にして高邁(こうまい)な理念を訴えることになる。それで支持が持続しているうちに政権の足元を固め、実績を積み上げていこうという作戦だ。

 同氏が2人目のマイノリティー大統領になれたのは、多分にリーマン・ショックのおかげだと言っても差し支えない。昨年9月初めの共和党大会を境に、マケイン/ペイリン陣営がとうとう優位に立った直後、50年に一度か百年に一度という金融危機に襲われたため、共和党候補が一気に自滅してしまったのだ。

 オバマ氏は明らかにケネディ政権を真似て、有能なスタッフを山ほどホワイトハウスに集め、閣僚も政敵から共和党、ユダヤ系、ヒスパニック、日系、中国系と盛りだくさんに任命し、多人種、他文化の「パッチワーク」(就任演説から)を実現して見せた。

 しかし最初の課題である約72兆円にのぼる景気対策法案に、共和党は下院で全員が反対し、上院でもわずか3人が賛成に回っただけだった。
 米議会では日本のような党議拘束がないので、与野党がきれいに分かれるという事態は異例だ。それだけ「大きな政府」への回帰には抵抗が強いということを意味する。

 超党派でこの経済危機を乗り越えようという新大統領の呼びかけは、伝統的保守の側から相手にされなかったわけで、思惑外れの苦しいスタートになった。

 約半世紀前のケネディ政権は、高い理念を掲げていくうちに国内に敵が増えていき、ソ連からはキューバ・ミサイル危機やベルリン分断などの挑戦が続いた。人気だけで政治はできない。

 3年後の今頃はもう大統領予備選が始まっている。その前年に支持が凋落していれば、クリントン国務長官などが辞任して再度の挑戦に打って出るだろう。したがってオバマ大統領に与えられた時間は2年か長くても2年半ぐらいしかない。

 その2年間に、日本の指導者は何人入れ替わるだろうか?

 いささか自虐的にならざるを得ないが、つい最近の小泉政権が5年半近くの長期に及んだのだから、その要因を後継首相たちがなぜ自分のものとしないのか理解に苦しむところだ。

 小泉首相も党内少数派の立場で理念型の指導者だったのである。

 ケネディやオバマと違って高邁な政治理念を広範に語るのではなく、単純で分かりやすい「改革なくして成長なし」という言い方で、戦後型社会からの脱却を訴えた。

 その象徴となったのが郵政改革であり、反対するなら「自民党をぶっ壊す」と宣言して国民を味方につけるのに成功した。靖国神社参拝を公約して実行し、中国や韓国の対日侮蔑に耐えかねた国民感情にうまく応えた。

 つまり、何らかの理念を高く掲げると必ず反発を誘発し敵が増える。それを自分で受け止めたら政権の終わりとなる。自分でなく国民にとっての敵となるように誘導する。オバマ氏が学ぶべきはこの分かれ目であろう。

 安倍晋三首相は小泉氏よりも保守本流と期待されたが、就任直後に中国に頭を下げに行ったばかりか、郵政解散に反対して除名された守旧派議員をあっさり復党させたため、いっぺんに国民から見放されてしまった。

 福田康夫首相は逆のスタンスの党内リベラル(かつ親中派)を表に出し、更に輪をかけて自民党を元に戻そうとした。それで「客観的に」世論に背を向けられ、病気でもないのに1年で政権を投げ出す羽目になった。

 麻生太郎首相も理念型でないことがすぐに分かってしまった。これだけ「未曾有の経済危機」に直面したのに、ありふれた「景気回復」という慣用句しか使わない。そんな生やさしい事態ではないのに、、。

 理念型の指導者なら、「百年に一度の大チャンス!」で「日本の産業構造を未来型に切り替えよう」とブチ上げるだろう。実際、オバマ大統領は施政方針演説でそれに近い檄(げき)を飛ばしているのだ。「単なる景気回復 to revive this economy でなく永続する繁栄のための新たな礎を new foundation for lasting prosperity」と、、。

 マイノリティー大統領は自然と理念型になるという法則があるとすれば、潜在的に候補者と目されているヒラリー女史、ペイリン女史、ジンダル知事(ルイジアナ州、カトリック、両親がインドから移民)など、理念型指導者の名は枚挙にいとまがない。アメリカは理念型大統領の時代に入ったと言えるかもしれない。(おおいそ・まさよし 09/02/26)


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