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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.122
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成21年6月26日

         日本の知恵で打開できるF-22問題

 当コラムは具体的な政策の提示を目的としているので、日米双方で膠着状態に陥ったF-22ステルス戦闘機の問題を取りあげてみたい。

 F-22(愛称ラプター=猛禽類)は米空軍の最新鋭(第5世代)戦闘機ですでに実戦配備が進み、現在でも主力のF-15(イーグル)などとの模擬戦闘で百戦百勝、一度も負けたことがないと喧伝されている。

 相手から見えない(レーダーに映りにくい)のだから当然と言えるかもしれないが、その他の技術、ノウハウも格段に進んでいることが窺える。

 その最強戦闘機が他機と比べて高額すぎるのと(F-15が約3千万ドル、その4倍強)、対テロ戦争には向いていないので使い道が限られるという理由で、オバマ政権はわずか187機で調達を打ち切ると宣言した。

 しかし議会の方は不満で、下院軍事委員会は12機の追加発注と日本の要請に応えた性能ダウン輸出仕様の研究費4千5百万ドルを独自に盛り込んだ予算案を可決した。オバマ政権は直ちにそんな予算案は認めないと警告を発したが、下院本会議は25日、却って大差で可決し、対日輸出を検討するよう政権に勧告した。

 つまり米国政府は前政権のときから、日本が買いたいといっているのに技術流出を恐れた輸出禁止法があってダメだと拒否しており、その上にオバマ大統領が国内調達を打ち止めにするという追い打ちをかけたわけである。

 しかし、皮肉にもリーマン・ショック以降の恐慌状態の中で、雇用の維持を求める声は当然に強くなっており、それがすぐ議員の行動に現れるから、オバマ大統領の蛮勇は議会とガチンコのぶつかり合いになってしまった。

 一方、日本側では、F-22は取得したいが、もし可能になったとしても超高額の上に、丸ごとブラックボックス、すなわち日本側がさわれないという条件がつき、無論ライセンス生産など認められないだろうという矛盾が残る。

 すなわち、1機百億円弱だった現行主力のF-15の3〜4倍もの高額を取られて、なお先端技術の取得がほとんど許されないということでいいのかどうか。

 F-15やイージス護衛艦の中枢は従来もブラックボックスだったが、それでもライセンス生産などの余地は相当程度あって、日本側の不満は抑制されていた。

 さて、日米両国のそれぞれの矛盾、対立を解きほぐす具体案を示そう。


 第1に、日本の方からF-22をリースで取得したいとオファーする。輸出仕様でなく現状のままで、リース料は米軍が調達する国内価格と同じに設定する。リース期間は交渉で決める。機数は当面50機とし、早急に生産してもらう。

 第2に、米側が浜田防衛相にオファーしたF-35の日本仕様を決定し、調達計画を策定する。これはライセンス生産を前提とする。


 以上である。分かる人には分かるはずで、この提案はオバマ大統領のメンツを保った上で、日米双方が得をする「一挙両得」案である。

 アメリカは雇用と設備投資を最大限に活かしながら、タダでF-22を数十機増やすことができる。ちなみにF-15などの主力機は改良や再設計を重ねながら数千機単位で生産されるのが通例であるから、187機でお終いというのは異例である。

 また、アメリカは第2次大戦中、同盟国に大量の兵器を貸与した経験を持っており(レンド・リース法)、戦後の日本にも軽装備を貸与したことがあるので、リースすることには抵抗が強くないと思われる。

 日本側の利点も一目瞭然だ。どうせ技術移転されないなら必要な期間だけ貸してもらうのでもいい。リース料として米軍の調達価格を支払うのもそんなにおかしなことではない。

 また、F-35は米英主導の国際共同開発機で約10ヵ国が計3千機の調達を表明しているが、まだ開発の最終段階にあり、日本の「急場」にはとうてい間に合わない。むしろ日本向けの仕上げに今から関わり、現行主力のF-15の退役に併せて更新していくほうが望ましい。米側にも異存はないだろう。

 以上の提案のカギは、日本の「急場」をオバマ大統領に理解させることにある。米軍は「戦闘」を前提として装備を考えるが、日本は大いに違うのである。

 日本の装備は「抑止力」の為にある。中国の核を抑止するのはいうまでもなくアメリカの核兵器だ(核の傘)。海は第7艦隊が十分に抑止している。世界最強の艦隊で、将来的に中国が空母を保有したところで大勢は変わらない。

 空だけは別で、日本自体が持つ200機のF-15戦闘機が抑止力を発揮している。沖縄に常駐する米空軍のF-15は50機に満たず、青森県三沢基地のF-16部隊は更に小規模の対地攻撃用である。

 米軍を除くと、日本ほど多数のF-15を保有している国は世界にない。しかし中国は数年から10年の間には、同じレベル(第4世代)の新鋭戦闘機をせっせと増産し続け、日本の優位を覆すほどの空軍力を持つに至ると予想されている。
 決して誇張ではない。F-15自体が米空軍ではすでに初期調達分を退役(廃棄)させ始めているほどで、中国が追い上げてくるのは自然の成り行きと言えよう。

 抑止力とは向こう(この場合は中国)が自らを抑えるようにする力のことだとすれば、向こうが自分の力を過信するほどの装備を持ったときに抑止力が失われる。したがって、日本は彼らがそう過信する前に、十分な数のF-22を配備しておかなければならない。それが「急場」の意味である。

 抑止力はまた、外交の手段(ツール)でもある。中国は空母を建造すると決めただけで、もう海軍首脳が米側に太平洋を半分ずつ支配しようと持ちかけた。日本などハナから無視している。
 
 無視されっぱなしの日本が唯一確保している抑止力が日米にとっていかに重要か、オバマ大統領に分からせることはそれほど困難ではないだろう。日本側からの真剣な働きかけがありさえすれば事態は動くと期待される。(おおいそ・まさよし 09/06/26)


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