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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.123
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成21年7月29日

       警報! 少数派が全体を牛耳る日本的病理

 自公連立政権が少数派の公明党に振り回されてきたことは、もう誰でも知っている常識だ。その弊害が民主党政権になると致命的なまでに悪化する。そのことを国民は今から十分認識しておく必要がある。

 公明党はいわゆる左翼(社会主義そのもの)ではないが、弱者の味方を自認している。そのため、財政負担の大きい「地域振興券」や「定額給付金」を強引に実施させたり、逆に贈与税、相続税などの軽減は金持ち優遇だとして反対し、景気刺激策の足を引っ張るというような行動を平気でとってきた。

 これと同じ関係が民主党では党内に存在し、少数の旧社会党系議員(自治労、日教組系)が党全体を左向きに動かしてきた。参議院で民主党はすでに第一党であり、日教組のドンといわれる輿石東(おきいしあずま)参院議員会長が社民党、新党日本などと連携して過半数を制している。

 少数派といっても党事務局や地方組織を握っており、多数派の自民離脱組や市民運動系、松下政経塾グループなどはほとんど手足を持たないので太刀打ちできない。
 日教組の組織率は3割を下回って久しいが、教育の現場を押さえている強味で影響力は衰えていない。

 ちなみに大学は日教組と直接の関係はないが、かつては少数の過激派学生がさんざんに破壊し、その後は少数の左翼教員が全体を牛耳っていて病理は全く同じである。

 あまり語られないが、地方自治体の首長は日教組と自治労の支持を得ないと再選不可能になるという。7月5日に投開票が行なわれた静岡県知事選もその典型例だった。
 民主推薦候補が自民推薦候補と全く互角の闘いで、そのまま投票日を迎えると予想された。そのギリギリの最終局面で輿石参院議員が現地入りし、配下の日教組に強力なハッパをかけた結果、72万8千 vs. 71万3千の辛勝でドンは鼻高々となった。

 実は当選した川勝平太氏は、安倍首相の「教育再生会議」のメンバーであり、産経系の「新しい歴史教科書をつくる会」にも名を連ねていた経済史学者で、隠れもない新保守の論客であった。

 そういう人物が全く正反対の立場の日教組に頭が上がらない形で、静岡県知事に就任したわけである。歴史的に保守的といわれる同県が、こういう形でハードな左翼(マルクス=レーニン主義)の影響下に置かれたという事実を、メディアはほとんど報道していない。 

 民主党の選挙用マニフェストには安全保障政策が全く書かれていない。これで政権を取ったら鳩山由紀夫首相はどうするつもりだろうか。
  
 その上、単独過半数がとれなくて社民党が連立政権に加わった場合、事態は更に深刻となる。党内と社民党の左翼連合勢力が、自公政権の公明党を上回るイデオロギー的政策の実現に猛進することは明らかだ。

 マニフェストより詳しい政策集には、旧社会党も顔負けの反日反米政策が山盛りになっている。靖国否定はもとより、国会図書館に戦前の日本を断罪する「恒久平和調査局」を新設するという公約まで入っている。まるで韓国の前政権を見るようだ。

 客観的に見ても、韓国の過去10年のように明らかな左派政権が出現することになるだろう。少なくともアメリカはそう判断するに違いない。

 オバマ政権は陰に陽に、民主党幹部たちに対し従来の安保関係を損なわないよう警告している。それで今回のマニフェストでは何も触れないという「逃げ」を打ったのだろう。

 日本の社会には「譲る」という文化が深く根付いている。対立する問題には常に「落とし所」が探られ中間点で妥協する。しかし我が国の左翼は志操堅固(?)で決して譲らないのである。
 あくまで自己の主張を貫くので、多数派が一方的に譲ることになる。妥協点は真ん中でなく、少数派が50以上を獲得して勝利する。
 
 それが戦後の日本の一貫した政治社会決定プロセスだったと言えるだろう。

 多数が多数として機能しない社会にどういう未来が開けているだろうか。いつでも少数が正しいように報道する大手メディアは、どういう責任を自覚しているのだろうか。(おおいそ・まさよし 09/07/29) 


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