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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.125
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成21年9月22日

          中国に誤解させておこう鳩山新政権

 「宇宙人」鳩山由紀夫首相の新政権は、外交ではアジア重視で「脱米入亜」などとも評されている。それで特に中国と韓国がどう見ているのかを注視していたところ、興味深い差があることに気がついた。

 ひとくちで言えば、韓国は単純に「親韓政権」と受け取っているのに対し、中国はかなりバラバラで警戒気味という感じが伝わってくる。

 そして、その違いがどこから来るかと言えば、おそらく漢字が読めるかどうかの違いではないかと思われるのだ。

 韓国民は高齢者以外はもう漢字が読めない。中国民は日本の漢字を見て意味が分かるので、鳩山政権が打ち出す数々の看板をそのまま受け取って、かなりとまどっているのではないかと推察されるわけである。

 以下に、具体的な例を挙げて、中国がこう受け取るであろうと推測してみよう。

 第1。内閣の中枢に国家戦略局を据える。

 ・・・来たな、「国家戦略」とは国の長期的な存続・安全保障を意味するから、とうとう日本は本格的再軍備と対外膨張政策に転換すると決めたのだな。

 ちなみに、国家よりも共産党がすべて上位だとしてきた中華人民共和国で、党総書記・中央軍事委主席の江沢民が1993年に初めて「国家主席」を兼ね、米国などと並ぶプレジデントにのし上がった。
 そして伝統的中華思想を復活させ、「中華民族」のナショナリズムを煽りに煽った。

 日本を対等の国でないと規定し、朝貢国の地位に落としたのも、江沢民国家主席の功績として中国の現代史に記録されている(江沢民文選)。国家という漢字に独特のニュアンスを持たせているからこそ、民主党の「国家戦略」という四字熟語に最大限の警戒心を抱かざるを得ない。

 第2。米国とは対等な同盟関係。

 ・・・アメリカと釣り合うまで軍備を増強し、安保条約も改定するつもりだな。核兵器も当然開発するに違いない。それでやっと対等な同盟と言えるからな。

 第3。東アジア共同体の構築を目指す。

 ・・・つまり「大東亜共栄圏」の再現が狙いだな。アメリカと対等になろうとすれば必然だ。論理的に一貫している。

 しかし東アジアはとっくに中国の共栄圏だ。日本は何を狙っているのか?
 民主党の言う東アジア共同体は対中戦略なのか、それとも対米戦略なのか、あるいは両睨みなのだろうか。経済戦略なのか、シーレーン防衛の軍事戦略なのか、さっぱりワカラン???

 第4。北方領土問題は半年から1年以内に進展。

 ・・・さあ、これはマズイぞ。新首相は一人息子がロシア留学中で親ロシア派のようだ。1956年に鳩山一郎首相がソ連に行き、平和条約と引き替えに2島返還という「日ソ共同宣言」を締結した。孫の新首相はそれを土台にして一歩でも進めようとしている。

 ロシアとの領土紛争が緩和の方向に向かうとすると、中国が尖閣や大陸棚資源開発で領土問題を激化させていく方向にあるのはマズイのではないか。


 以上4件、漢字が読めるが故にこのように誤解しているのであれば、我が国としては放っておくのが最善ではないかと思われる。

 いちいち親切に、「日本国の戦略など誰も考えてやしませんよ」「だいたい外務、防衛の領域には踏み込まないと言ってます」「予算の骨格だけしか扱わないんですよ」などと説明する必要はない。

 まして、「日本列島は日本人だけのものではない」と口走ったぐらい地球人離れした首相なんですから、などと漏らしてはいけない。

 また「アメリカと対等」なんて、本気で目指しているのは空母オタクの中国海軍首脳ぐらいなものですよ、などと本音を言ってはならない。日本人も目指しているように思ってくれているほうがいい。
 
 内政の看板で「地方主権」というのも、かの国に正しい誤解を与えるもので、外交戦略に活用できるかもしれない。

 主権(Sovereignty)を持つのは独立国と決まっているから、地方に主権を与えるということはすなわち地方を独立させるという意味になる。

 だから、民主党は日本を連邦国家に組み替えると言っているわけで、そのための担当部局として国家戦略局を設けるわけだなと納得する。

 では、いくつかの連邦構成国ができ、それぞれが国防軍を持つのか、アメリカの州軍方式になるのか、またかの国としてはそれぞれの構成国に大使館や親中組織を新たに設けなければならないのか。等々と、悩みの質と量は数十倍に膨れ上がるだろう。

 だが日本国の国民としては、そのまま放っておくのがいい。決して親切に「日本で地方主権を実現すれば、次は中国でチベット、ウイグルなどの主権に向かいます」などと本当のことを教えてはならない。(おおいそ・まさよし 09/09/22)


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