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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.127
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成21年11月22日

           子ども総理、こども店長、子ども手当

 就任わずか2ヵ月で鳩山由紀夫首相の迷走、迷言、失言が相次ぎ、米軍基地問題では迷走以前とまで呆れられる事態に発展してきた。

 オバマ大統領との認識の違いを質されると、日米首脳会談における次のようなやりとりを口頭で紹介し、19日付けの内閣公式のメールマガジンでも自身のコメント付きで以下のように公開した。

 "Please trust me."(私を信じてほしい。)
 "Absolutely, I trust you."(もちろん、あなたを信じますよ。)
 首脳会談の折、オバマ大統領と交わしたこの言葉を、国民のみなさまにもぜひ信じていただきたいと願っています。(引用終わり)

 耳を、あるいは目を疑った国民はゴマンといることだろう。同盟国どころか敵対国の首脳の間でも、「信じてくださいよ」と言われて「ノー」と言う会話はあり得ない。

 いわんやその会話を、自分に対する特別の信頼の証拠だとして大々的に公開する首脳が歴史上存在しただろうか。
 これはもう、小学生の討論レベルだと言わざるを得ない。

 総理の言う「勝利者である国民お一人お一人」としては、まじめに鳩山総理ご本人に対する「傾向と対策」を考えなければならない事態になった。

 最も単純な「傾向」は、おなじみの「宇宙人だから」という見方だ。これは非常に当を得ているように思われるが、対策は「地球から飛び去るまで待つしかない」ということで具体性はない。

 もっと注目されるべき「傾向」は、平野貞夫・元民主党参院議員がこの時期に総合雑誌で公表した鳩山由紀夫像である。原文のまま紹介する。

 一見ブレたように見えることをブレたと考えては、彼の行動をとらえられない。彼はいわば意識的「夢遊者」といってもいい。(『月刊日本』09年11月号)

 インタビューを活字にするとき「病」の字を避けたのだろうと推測されるが、要するに眠っていない夢遊病みたいなものだからまともに受け取るなと言っているのである。

 発言者が小沢一郎氏の身内ともいえる最側近であり、もともと生え抜きの国会職員としてすべての政治家を身近に見てきた人物であることを考えると、この「傾向」に対しては、政治的立場を棚に上げてでも、医学や心理学の専門家が真剣に「対策」を考えるべきではないかと思う。

 当コラムでは更に進めて具体的な傾向と対策を考えたい。

 鳩山首相は重要な演説や予算委員会答弁で、過去における言動のすべてを否定せず、本気で信じているらしいことがわかってきた。そこに注目する。

 そこから「傾向」がハッキリ出てくるので、「対策」としては誰がそういう考えを吹き込んだかを探り出す。

 例えば、友愛が鳩山家の家訓で、それを東アジア共同体構想に発展させたという。「原型はヨーロッパ共同体 EU」だとシンガポール演説で言明した。欧州とアジアでは全く事情も歴史も文化も違う。東アジアとはどこを含むのかも定かでない。それを単純に連結させたのは誰の入れ知恵か。

 これは大手商社・三井物産のお抱え論客の名がすでに取り沙汰されている。

 普天間基地の問題では、「県外か国外への移転を選挙で訴えて勝った」というが、旧民主党時代から独自の政策として「常時駐留なき安全保障」を謳っている。つまり、米軍に基地ゼロを要求しているのがもともとの信念なのである。

 そこからくる迷走、迷言であることが分かっているので、それならそういう考えを吹き込んだのは誰かを追求すべきであろう。

 経済政策でも、最もコストのかかる「子ども手当」を所得制限なしで実施するという信念を、誰が吹き込んだのだろうか。

 自分が裕福であるなら、幼少の子があるからといって一律に給付金を受け取る必要はないと思うのが普通だろう。なぜ鳩山首相は逆を主張するのだろうか。誰が、いつ、何を吹き込んだのだろうか。

 オトナ顔負けに仕事する「こども店長」にも子ども手当が支給されることになる。総理自身がオトナとも子供とも分からない宇宙人だからなのか。

 もう一つ、予算委員会で自民党委員から突っ込まれ、定住外国人に地方参政権どころか国政参政権を付与することを、「いのちを賭けても実現したい」と確認し、さらに「それが憲法違反なら憲法改正してでも」という意思も不変だと認めた。

 もともと理科系の頭脳で、政治家になるまでは政治や歴史に疎かったのであろうと思われる鳩山氏に、こういう信念を定着させたのは誰だろうか。

 メディアはその大小にかかわらず、こういった傾向と対策に乗り出すべきだろう。目に見える事業仕分け作業の報道に熱を上げるのもいいが、鳩山総理の「脳内仕分け」を早急に実施するよう要請したい。(おおいそ・まさよし 09/11/22)


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