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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.128
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成21年12月20日

         小沢大老、鳩山お飾り将軍が揃った平成幕末

 実に奇妙な国が出現したものだ。井伊大老が幕閣を支配した時代に突然戻ってしまったらしい。

 小沢大老は「借り」のある外国使節が京都の天皇に会いたいと要求したので、鳩山将軍と平野若年寄に「しかるべく取りはからえ」と指示し、その通りに事が成就した。禁裏でさえ反抗は許さないぞという権力の一極集中だ。

 大河ドラマ「天璋院篤姫」で見たように、幕末数代の徳川将軍は自分の無力さを十分自覚していたと思われる。しかし鳩山将軍にはそういう自覚さえないようだ。

 こういう権力の逆転現象は、しかし決して珍しいことではない。公式、表向きの最高ポストが実際にはそうでないという国が現に幾つもある。手っ取り早く、ロシア、中国、イランの3ヵ国を挙げ、この列に日本が加わったということの意味を考えてみよう。
 
 ロシアでは前大統領のプーチン首相が最高権力者であることを誰も疑わない。憲法で大統領の任期が2期8年までと決まっていたので、2007年に腹心のメドベージェフ首相とポストを交換して実権を維持している。
 お飾りのメドベージェフ大統領をいつでも降ろせるので、機を見て大統領に返り咲き、憲法改正で6年となった任期を2回で12年間支配しようと狙っている。

 中国は胡錦濤が党・軍と国家の最高ポストを3つとも占めているが、それでも去る10月1日以来、本当の最高権力者ではないことが明らかになってきた。

 同日の軍事パレードを始め多くの公式行事で、とっくに引退した無冠の江沢民・前国家主席が、現職の胡錦濤と同格扱いで健在を誇示していた。公式の肩書きがない最高実力者というのは前近代的で不気味な存在だ。

 天皇陛下に面会を強要した習近平・国家副主席は、日本では次期主席最有力ともてはやされたが、これも江沢民が強力に推したことがよく知られている。10月中旬、ドイツを訪問してメルケル首相に会った際、江沢民の著書2冊をプレゼントして話題になった。本当の最高実力者が誰であるかをあからさまにしたとも言えよう。

 日本政府が習副主席(党内序列6位)を丁重に扱えば扱うほど、対抗馬の李克強・副首相(同7位)を後継者にしたい胡錦濤とその勢力は不満を募らせることになる。小沢大老の幕閣は愚かにも中国共産党の内部抗争にみずから進んで巻き込まれた。

 イランは、普通選挙で選ばれる大統領の上に「最高指導者」が君臨する。これはイスラム教シーア派に特有の政教一致思想によるもので、イスラム革命で王政を打倒したホメイニ師のような最高の聖職者がすべてを治めるという建前になっている。

 最高指導者の地位や権能は憲法に規定されているので、ロシアや中国の法制外の最高実力者よりマシと言えるだろう。それでも、もともとはホメイニ師の存在を前提にして制定された地位であり、後継者のハメネイ師の資格や指導力に疑問を持つ国民が次第に増加し、イランの政治外交を不安定にしている。

 さて、この3ヵ国に共通するのは、いずれも近代(西欧型)民主主義国ではないこと、また反米ないし米国と対立している国であり、さらに地域大国か準大国であることだ。

 わがニッポンはどうだろうか。準大国であることは同じだ。しかし大違いなのは、近代民主主義国から一気に幕末に逆戻りしたことだ。将軍の番頭にすぎない大老が最高権力者として君臨する政治体制は、上の3ヵ国よりも前近代的と言わざるを得まい。
  
 この現状が世界に知れ渡ると、西欧型民主主義の側から「4ヵ国ともやはりアジア的専制は同じなのか」という評価が生まれる恐れがあろう。
 日本だけは違うと日本人は言い続け、戦後の半世紀で自分たちも世界の大半でもそう信じたはずだった。

 皮肉にも、鳩山お飾り将軍が「脱米入亜」を叫ぶのは、何のことはない「アジア的専制への回帰」だったのか、ということになる。
 
 マッカーサー将軍いわく「日本の民主主義は12歳」だったが、井伊大老支配下のそれは何歳で、小沢大老支配下のそれは何歳なのだろうか。(おおいそ・まさよし 09/12/20)


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