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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.129
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成22年1月26日

         メンツと実益両立するメガフロート方式

 結論から先に言うと、米軍普天間基地の移転問題は、辺野古(へのこ)のシュワブ基地にメガフロート滑走路を増設することで解決できる。

 この案は新しいものではなく、もともと14年前、普天間飛行場の全面返還の見返りとして最初に提示された「名案」だった。それが実現する環境が整ったと考えればいいのである。

 この名案は、「撤去可能な滑走路」なので、辺野古沿岸の自然破壊を最小限に抑えることができ、更に近い将来に撤去して基地も返還されるという希望を持てるという点で、沖縄県民にとって最も好ましい選択肢であった。

 公的に検討された提案ではなかったが、鉄鋼・造船業界は共同研究を加速し、実際に全長1キロ、最大幅120メートルの実証用滑走路を建造するに至った。

 それが辺野古増設計画に採用されず、「迷案」に終わってしまったのはなぜか?

 主たる理由とされているのは、メガフロート方式では鉄鋼・造船業界が事業の主たる受益者となり、いわゆる土建業界にカネが落ちないからだったという。
 事実、政府も地元賛成派もすぐ沿岸埋め立て方式でまとまり、それが滑走路1本から2006年の日米合意ではV字型2本にまで拡張されるに至った。

 すべてが土建屋的発想に基づく計画だった。巨大ダム建設と全く同じで、元請けのスーパーゼネコンから地元の零細土建業者までが税金で潤う。戦後の日本に定着した公共事業依存体質が、今日の普天間騒動の根底にあることは疑う余地がない。

 それが政権交代によって初めて国民の知るところとなったのである。

 そう考えると普天間問題はむしろ解決の好機が訪れたということではないだろうか。

 袋小路に入り込んだように見えるのは、もっぱら鳩山総理の宇宙人的発言に惑わされているからであって、実際には現政権が土建屋的発想を真っ向から拒否したことで、この問題は解決が見えているのである。

 辺野古地区を含む名護市に「海上にも陸上にも基地は造らせない」という新市長が誕生したが、この観点からすればプラス材料だと見ることができる。

 辺野古地区の住民にとって米軍基地なしの経済は考えられない。基地は活気があった方が地元にもプラスとなる。新市長も当選すれば当然、自分の責任としてその事実を直視せざるを得ない。

 政権交代によって、もはや辺野古の山を削って基地沿岸を埋め立てる計画は現実的でなくなった。しかし米国に約束した移設計画は一方的に破棄することができない。前に進めなければ普天間の現状が固定化され、事態は悪化するだけである。

 それならば、迷路をぐるぐる回るのをやめて、スタート地点に戻るのが最良策である。メガフロート滑走路は技術的には完成されているといわれる。横須賀沖で3年間実施された実験では、YS-11旅客機の離着陸も行われた。

 技術的には5千メートルでも可能で、数年前には羽田空港の海上滑走路としてオファーされたぐらいだが、辺野古用には最大限1,600メートル、陸上と連結するならばもっと短く建造費用も節約できる。

 鳩山首相はすでに「県外・国外」の公約を捨てて「ゼロベース」に降りている。ここから「撤去可能なメガフロート方式」に乗り換えてもメンツは保たれる。名護市長も「国が決めたことだ」と立場を保てる。福島社民党党首も「撤去可能なら」と言い訳できる。

 米国側はどうだろうか。積極的に反対する理由はなさそうだ。鳩山政権と揉め続ける方がよほどマイナスが大きいと判断するだろう。

 残る問題は鋼材と巨大な箱を作る鉄工場、造船所などをどう確保するかということだが、それらは5月に新たな日米合意が成立したあと、双方でじっくり計画を練ったらいいだろう。

 要は「撤去可能」というキーワードで、関係者全員が少しずつ不満ながら納得することである。(おおいそ・まさよし 10/01/26)
 

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