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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.132
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成22年4月27日

       日本再生はミニ新党でなく旧民社党再興で

 まず最初に、「二大政党による政権交代」が望ましいという常識を否定しておかなければならない。

 おそらく英米両国が議会民主制のお手本だという前提があって、その両国が二大政党による政権交代を繰り返してきたので、そういう常識が出来上がったのだろう。しかし、英国ではすでに二大政党制ではなくなっている。残るはアメリカだけになりそうなのが現状である。

 英国の総選挙は5月6日が投票日だが、拮抗する与党労働党と野党保守党を尻目に、第3党の自由民主党(中道左派)が人気では第1党となるほどの健闘ぶりを見せている。

 英国の場合、伝統的な社会階層の上下を代表して、上流富裕層の保守党と、被雇用者中心の労働党に分かれて二大政党制が成立した。しかしすでに1970年代末、雑貨商の家庭に生まれて保守党に入党したサッチャー首相が誕生し、伝統的な二階層社会が崩れていることを印象づけていた。

 すなわち、階層による二分法は時代が進めば必然的に流動化し、中流階層が次第に拡がっていくので、理論的にも三分化されていくことになる。

 一方、アメリカの二大政党は階層と全く関係がない。独立戦争を勝ち抜いた13植民地が連邦国家を創るにあたって、強力な中央政府を望むかどうか、逆に言えば伝統的なコミュニティ中心の地方自治をどれだけ残すかで、2つの政治潮流が生まれた。

 現在のオバマ民主党大統領は中道左派政権であり、就任以来「超党派」を共和党に呼びかけているが、国民皆保険導入などほとんどすべての政策で共和党は一人の落ちこぼれもなく反オバマの姿勢を堅持している。秋の中間選挙では、与党民主党が大きく議席を減らすと予想されている。

 共和党は正式名称のリパブリカンよりも通称のジーオーピー(GOP=Grand Old Party)の方が親しまれている。強いて訳せば「アメリカ本流党」という意味だ。米国民は左寄りの民主党に飽きたときは本流に戻る。それがアメリカの歴史的な政権交代だった。

 英米両国の政治状況を理解すると、日本政治がどういう状態にあるのかがよく分かってくる。戦後の日本では英国のような階層分化による二大政党はあり得なかったので、いわゆる55年体制と言われる保守・革新の疑似二大陣営が成立した。

 保守は約7割の多数派を占めながら、少数派の左派が主張する社会主義的政策を大幅に採用してきた。自民党が党内派閥の合従連衡による疑似政権交代を繰り返し、そのために野党である革新陣営の政策を都合良く取り入れる必要があったからである。

 現在の小沢・鳩山民主党は、二大政党による政権交代を予期していない。鳩山首相はお飾りで全く無力。小沢実力者が実行しているのは自民党の集票基盤を全部、根こそぎ奪い取る戦略である。

 小沢一郎幹事長は浮動票など歯牙にもかけない。過去数十年にわたって自民党に票を出してきた大小の組織を全部、民主党支持に寝返らせる。それで民主党の天下が実現する。それが選挙というものだと信じている。

 旧自民党田中派で身につけた手法を駆使して、かつての自民党のクローン政党を作ろうというのが、小沢幹事長の本音であろう。しかも一党覇権の中に自民党時代の野党だった革新陣営をも取り込む、というより一足先に取り込んでしまっているのだ。

 根っこを掘り崩された自民党は立ち枯れる。「みんなの党」を始め数人規模のミニ政党が分離独立していくのはそのプロセスが進行していることを意味する。

 しかし確固たる支持基盤を持たない分離独立では小沢戦略に対抗するパワーは持ち得ない。これも自明のことであろう。

 小沢流の大政翼賛体制を本当に実現したいと願う支持者がどれだけいるだろうか。民主党の支持基盤である「連合」(約675万人)の中から、小沢幹事長の意に反して「UIゼンセン同盟」が組織として「外国人地方参政権に反対」を明確にした。

 ユーアイゼンセン同盟は旧同盟すなわち旧民社党の支持基盤であり、現在の連合傘下で最大の約107万人の組合員を擁している。小鳩民主党を左向きに引っ張っている旧社会党系の自治労(約90万人)や日教組(約27万人)よりも強い発言力を持っているはずである。

 旧社会党系の特徴は、反米・親中・空想的平和主義の組み合わせに集約されよう。普天間問題も対中外交の異様さもそこに根を発していることは明らかだ。

 国の有りよう、国防・安全保障、教育など国家の基本に関することで相容れないならば、1つの政党に同居することはできないはずだ。旧民社党系はようやく小鳩民主党の危険性を認識し始めたようだ。

 自民党や支持基盤を持たないミニ政党でなく、強大な基盤と共に民社党が再建されれば、小沢戦略を阻止するパワーとなり得て、異様な一党覇権の日本国に向かわないよう歯止めを掛けることができるだろう。

 こういう歴史的使命を帯びた新党は、その名称もアメリカを参考にして「本流党」か「本流議会党」としたらどうだろうか。もし実現すれば衆参同日選挙が必至となり、日本を覆う黒雲が一気に晴れる機会が訪れる。(おおいそ・まさよし 10/04/27)


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