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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.136
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成22年8月27日

       中国が旧列強に謝罪・賠償を要求する日

 この8月は世界的な異常気象のなかで、歴史的には後世、米中冷戦が始まった時期として記録されるかもしれない。

 それほど大きな時代の転換点にあって、日本はどういう役割を果たしているのかを考えてみた。

 それを数式で現すと、「課題先進国×謝罪先進国=落第先進国」という掛け算が成立する。この場合の先進国とは「先行経験国」という意味である。

 掛け算だから謝罪先進国がマイナスであれば、答はマイナスとなり、謝罪が重なれば答のマイナスは加速度を増してどんどん大きくなる。

 8月10日の菅直人「首相談話」は、櫻井よし子氏によると日中国交正常化(1972年)の田中角栄首相以来、実に36回目の公式謝罪だという(産経、8/12)。

 これだけマイナスが大きいと、環境問題や省エネなど課題克服先進国のプラスがいかに大きくても、結果は現在のように、先進国の地位から脱落しかけるまでに落ちるのは当然ということになってしまう。

 日本一国のために「NDC=新規没落国」(Newly Declining Country)というジャンルが用意されたという話もある。

 公式謝罪は全く同じ文言を繰り返すわけにはいかないので、必然的に少しずつ「踏み込んで」いく羽目になる。今回の菅談話でも、初めて韓国という特定国を相手に、韓国の人々の「意に反して行われた植民地支配」という表現を入れ、韓国が主張する「不法、不当な併合」に迎合してしまった。

 驚いたことに1週間後の18日、毎日新聞が、中国で「沖縄返せ」の声が高まっているという大スクープ(?)を大々的に報じた。
 朝刊1面トップで全記事面積の約60%と、さらに2面の半分を使った全力投球の記事で、あの輝かしい「神の手旧石器捏造」スクープを偲ばせるほどの扱いだった。

 キャッチに「琉球併合に国際法上の根拠はない」「沖縄に親中国の土壌」とあるように、明らかに菅総理談話が出るのを予期して、中国にはもっと歴史的に正当な対日請求権があるかのように、おもねった記事を周到に用意していたのである。

 同じ8月に中国が日本を抜いて世界第2の経済大国になったと推計され、その事実をあたかも背景のようにして、中国はアメリカの海軍力に公然と挑む行動に出てきた。

 米政府もごく最近までは経済力に配慮して中国の横車を受け流していたが、さすがに黄海や南シナ海を領海のように囲い込むに至って、とうとう戦略の転換を余儀なくされた。

 中国が米空母を最も嫌うのを逆手にとって、韓国との合同演習に続いてベトナムとの合同訓練でも原子力空母ジョージ・ワシントンを参加させ、次はいつでも黄海に派遣するぞと威嚇している。

 毎日と並ぶ親中国の朝日新聞は中国の空母建造計画の報道に熱を上げている。これまで他紙の数倍に及ぶ回数と紙面面積を費やして、中国の空母建造の現状を事細かに報道している。

 たとえば8月18日朝刊だが、地図と訓練飛行場の写真付きの大きな記事で、キャッチに「空母建造急ぐ中国」「推進論、米韓演習で拍車」とある。

 つまり、中国の空母はアメリカの軍事的挑発に対してやむを得ず開発しているのだ、と日本の読者に思わせたい意図が透けて見える。いわゆるマインド・コントロールであろう。

 中国は7月に米韓合同演習に対抗して大規模な海軍演習を実施し、8月には特に米空母を1発で撃沈する目的の地対艦ミサイル「東風21D」を試験発射すると発表した。

 この暑い夏を米中冷戦の始まりとみなすなら、次のステップはどういう状況に進むだろうか。

 世界第2の軍事・経済大国という自己認識を持った中国は、大日本帝国よりずっと前から中国を半植民地化したいわゆる欧米列強に対して、堂々と謝罪と賠償を要求するに至るだろう。

 そういう事態を先行経験したのが日本である。過去40年にわたって課題先進国であり、謝罪先進国であった日本が先導する世界があるとすれば、それは中国がアングロサクソンの論理に基づく国際法、国際秩序を無視し、独自の中華思想に基づく秩序を強制する世界である。

 日本はすでに賠償の代わりとなる金銭、資本、先端技術、ノウハウなどをすべて提供し終わり、毎日に従えばあとは沖縄を「返す」だけであるが(笑)、旧列強は何をどれだけむしり取られるか呆然とするのみであろう。

 冷戦が次の大戦に発展しないという理由は何もないのである。(おおいそ・まさよし 2010/08/27)


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