国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.138 by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表) 平成22年10月27日 国家の基盤を壊す鳩・菅・仙民主党政権 夜警国家というのは究極の小さな政府という例えだが、政府がやるべき必要最小限の仕事を一言で表しているので、現代でも十分通用する格言となっている。 対外的には国防、国内的には治安と分けられるが、両者一体となって国家安全保障(National Security)という概念で理解されている。 民主党が政権を奪取して1年の間に、鳩山、菅、菅改造と3つの内閣が相次ぎ、現在の政権は赤い官房長官こと仙谷由人「陰の総理」が牛耳っているようだ。 民主党がどんどん壊れていることは確かだが、その過程を面白がっていると民主党が意図的に「夜警機能」を破壊している事実を忘れてしまう恐れがある。 鳩山氏は総理就任の昂揚感に酔いしれ、「これまでアメリカに依存しすぎた」と米国離れを宣言し、沖縄から米海兵隊の事実上の撤退を要求した。 それがわずか1年後の尖閣問題に繋がったことは誰も否定し得ないだろう。 重要なことは、この外交敗北が失政というものではなく、初めから意図して外交防衛の基盤を破壊しようとした結果だという事実である。 そのお粗末ぶりと並行して、もう一つの国内的「夜警機能」も危機に瀕していることに注意を喚起しておかねばならない。 国内の治安を担う行政トップは法務大臣(検察、公安調査庁)と大臣・国家公安委員長(警察)だが、民主党はこれらのポストにわざわざ不適格と思われる人物を連続して就任させているのだ。 これは「アメリカ離れ」と同じように、あからさまな国家の基盤破壊を狙ったものと判断せざるを得ない。 鳩山総理任命の千葉景子法相は3ヵ月前の当コラムで指摘したように、日本人拉致実行犯を含む韓国政治犯の釈放嘆願書に署名した旧社会党議員であり、おまけに死刑廃止論者だった。 同じ期間に国家公安委員長兼務だった中井洽・拉致問題担当相は旧民社党出身だが、この人物は兼務の立場を利用して大韓航空機爆破テロの実行犯だった金賢妃元死刑囚をチャーター機で日本に招待し、国賓級の歓待をしてみせた。 金賢妃は日本の国内法上の犯罪容疑者なのだから、警察のトップという本来の立場からはそういう発想すら出てこないはずである。 菅改造内閣ではさらにおかしなことになった。国家公安委員長になった岡崎トミ子参院議員も旧社会党出身で、2003年2月、韓国の自称「従軍慰安婦」たちと共にソウルの日本大使館にデモをかけ、大きく×を付けた日の丸をバックにアジ演説をしたと報道された。党内で注意処分を受けたので、事実は間違いないと思われる。 つまり明らかな反日活動で日本の治安当局からマークされているはずの議員を、菅・仙谷政権はわざわざその当局の命令権者に据えたわけである。ここに何らかの作為、いや悪意を感じない国民はいないだろう。 岡崎国家公安委員長は今月22日の衆院法務委員会の答弁で、自分の行動が「国益にかなう」と思っていると口を滑らせた。明らかに確信犯なのである。 また新たに法務大臣になった柳田稔参院議員は東大船舶工学科卒で、組合幹部から旧民社党に入党した経歴の持ち主だ。法律とは全く無縁というだけでなく、拉致問題担当兼務となったのに、今まで拉致問題と関わったこともないという。 これほど無責任な任命も珍しいが、予備知識が全くないだけに、上司(菅、仙谷)や官僚側の「言いなりになるだろう」という期待感が伝わってくる。 実際、その期待通り、柳田法相は巡視船に体当たりして逮捕された中国人船長を、那覇地検の独自判断として釈放させた。これは誰の目にも不自然であり、官邸サイド(=官房長官)が法相に「裏口指揮権発動」を要求したことは容易に想像できる。 いわゆる指揮権とは、「個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる」という検察庁法の条文で、法務大臣の検察に対する命令権を制限していることを指す。 その法的制限を無視し、検事総長が関与しない形で地検が誰かに指揮されるという前例が作られた。誰が作ったのか、誰の目にも明らかだろう。 ヤミ手当、ヤミ専従などの違法行為を何とも思わない労組体質が臭ってくる。 鳩山ルーピー首相の対外夜警機能破壊がすぐに尖閣問題を呼んだように、もう一つの国内夜警機能の破壊が何を呼ぶか、実に恐ろしい事態となっている。 米国などのいわゆる西側先進国から見た場合、マルクス主義を引きずった大臣を戴く日本の治安組織を信頼できるはずはない。そんな相手とまともに情報を交換しようとは誰も考えないだろう。 世界の安全保障概念は対テロ戦争という目的で内外一体化している。日本だけが例外とも言える状態になっている。日本は皮肉にも内外一体で安全保障体制を破壊し続けているわけである。(おおいそ・まさよし 2010/10/27) |