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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.139
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成22年11月24日

        北の砲撃は中国に倣った領海拡大戦略か

 昨日午後に突然起きた北朝鮮の韓国領砲撃は、中国を手本とした領海拡大戦略という可能性がある。そうだとすれば中国は、北の無法な挑発行為を非難できる立場にないということになる。
 
 メディアや北朝鮮ウォッチャーが見逃している要素かもしれないので、急遽このコラムで指摘しておきたい。

 中国は尖閣紛争で日本の国内法適用を断念させ、結果として法的に尖閣諸島を日本から遠ざけることに成功した。この前例と、今回の北による大延坪島砲撃事件には、よく似たところが見てとれるのである。

 事件の先を展望した方が分かりやすい。すなわち、日本はもはや領海内であっても侵犯して操業する中国漁船を逮捕することが難しくなった。そういう事態にならないように巡視船のほうが回避することは必至だ。

 同じように韓国は北が「領海」と主張する海域で自由に行動することが難しくなった。砲撃された大延坪島だけでなく、海上軍事境界線の南側の、韓国側が主張する領海にある島々から民間人の住民が激減することになるだろう。

 民間人は主に漁民であるから、韓国漁民が近づけない豊かな漁場はそっくり北の独占資源となる。

 島々に駐屯する韓国軍兵力は意地でも退去するわけにはいかないが、北が「領海」と言い張る海域内にいわば孤立するような状態になる。挑発を受けても対応しにくいだろう。
 これも尖閣周辺を警備する数隻の日本巡視船とよく似ている。

 歴史的にも北は中国の海洋戦略を真似していることは確かだ。

 中国は1992年に尖閣諸島を国内法で中国領とし、一方的に領土問題を創りだしたが、同じように北朝鮮も99年9月に独自の海上境界線を宣言し、自国の「領海」を一気に南に拡大した。

 今回、北は予め、韓国軍の合同訓練が自国の「領海」内で行われたら報復するぞと警告していた。砲撃のあと北の司令部は、「韓国が我が領海の延坪島海域に23日午後1時ごろ、砲弾数十発を撃ち込んだ」と発表し、だから言ったじゃないかといわんばかりの正当化を行った。

 世界の常識からいえば、民間居住地を無差別砲撃するのは信じられない蛮行であるが、中国漁船が日本の巡視船に体当たりしたり、その船長を英雄として出迎えたりする中国政府が、リッパなお手本を示していたからではないだろうか。

 暫定的な結論として、北の砲撃は勝手な「領海」を拡大確保する目的の乱暴な張り手であり、手本は尖閣にあったと見る。これで地理的に韓国より北朝鮮に近い沿岸諸島とその海域を、韓国から政治的経済的に遠ざけることに成功した。
 
 これこそ三代目首領候補の目覚ましい功績として北の人民に示される実績であろう。

 それにしても日本の尖閣外交の完敗が初のロシア大統領による北方領土訪問を許し、さらに北朝鮮による初の韓国陸地砲撃を誘発した。そう考えると民主党政権の罪は量り知れないほど重い。(おおいそ・まさよし 2010/11/24) 

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