ThinkTank Report
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国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.140
    by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)

平成22年12月21日

        消費ポイント導入で閉塞打破する大作戦案

 当シンクタンクが全くオリジナルに考案した景気低迷打破の名案(?)を公開し、読者諸賢のコメント、ご批判、ご提案等を広くお受けしたい。

 狙いは政治家や行政の考え方ではどうしても諸施策の分散小出し、様子を見て逐次投入という負け戦(いくさ)の定理から抜け出せないので、その逆となる勝ち戦の作戦を考えることにある。

 つまり1点集中、中央突破作戦である。そこで狙いを、個人(家計)の過剰貯蓄を思い切って消費と投資に振り替えさせることに絞ってみた。手順は以下のように単純明快である。

1.銀行・郵貯に1年以上預けた預貯金を引き出したとき、その額に5%の報奨金が付くようにする。つまり預金し続けると金利はほとんどゼロだが、下ろすと5%増えるという逆転の発想である。

2.次がミソ。たとえば100万円を下ろした場合、報奨金利がついて105万円になるが、金利5万円と同額の5万円を合わせた10万円が消費ポイントとして登録される。手元に受け取る現金は95万円となる。消費ポイントはその年度内に使い切らなければならない。(実際には金利への課税分が差し引かれている。)
 つまり、報償金利5%プラス同額の預金引き出し額を、合わせて消費に振り向けるというマッチング方式である。

3.消費ポイントはほとんどあらゆる国内消費支払いと、国内上場株式および投資信託の購入に使用できる。その他の金融商品と保険料支払いには使用できない。

4.報償金利5%は銀行・郵貯が負担する。税金による財源の心配がない。

5.例示で言うと手元の95万円をすぐ預け戻すことは自由だが、その後1年経ってからの引き出しでないと金利5%の対象にならない。このプロセスを繰り返すことによって、持続的に過剰貯蓄が消費に振り替えられていく。

 以上である。簡単に説明を加えておこう。
 日本では家計部門に多く見て200兆円もの過剰貯蓄があり、それが長い景気低迷の元凶だという説が強い。2年前に総合研究開発機構(NIRA)が発表した研究では、3通りの推計のうち最大で179兆円とし、「少なくとも100兆円を超えている」と結論づけている。(税収は40数兆円でしかない。)

 政府の増税案は消費税増税の可能性を含め、ほとんどすべてがこの過剰貯蓄を解放させようとする手段と考えられている。それなら、増税や強制的な手段でなく、国民が喜んで過剰貯蓄を下ろし消費に使うように誘導する方が得策ではないか。

 上の消費ポイント導入案は強制力が一切なく、かつ財源の心配がないという2点において、大きな利点を持っている。
 
 銀行等が5%の金利を負担するのは不当だと思うかもしれないが、過剰貯蓄が解放されて株式購入(投資)に向かえば市場は活性化し、銀行の含み資産が直ちに膨張する。

 また、いわゆるタンス預金が銀行等に流入するので、銀行にとってはプラスが大きいはずだ。
 個人が退蔵するタンス預金は30兆円(日銀調べ)から44兆円強(第一生命経済研)に上ると推計され、これこそ本当の埋蔵金だと専門家は見ている。

 この埋蔵金は、銀行に1年預ければ確実に5%の金利が得られるということになれば、退蔵している意味が薄れるのでタンスから出てくるに違いない。

 日本経済の特徴として、個人金融資産が600兆円近くもあるのに、5割以上を現金・預金が占めており、対照的に株式・投資信託の割合は1割程度で欧米諸国に比べ2分の1から3分の1と非常に小さい。

 消費ポイント導入で直接的にこの比率の改善を計ることが可能になる。そのため預貯金と同じような安全資産である国債や保険向けには使用不可とし、証券投資は株式と投資信託に限り使用できるようにするのである。

 なお日本銀行は35兆円の「包括的な金融緩和政策」のうち、5兆円規模で金融資産を買い取る仕組みを実施中だが、株式などのリスク資産は対象とせず民間に委ねている。
 したがって本提案は日銀の政策意図とも合致し補完する役割を果たすことになる。 

 このシステムが機能して数年か十数年たつと、どうしても消費に回したくないという預金のみが銀行に残る。もともと過剰貯蓄は推計でしかないので、結果的に5%の金利を求めて引き出された総額が過剰貯蓄だったということになる。

 これほど経済原則に沿った、かつ強制的でない、消費刺激策が他にあるだろうか。

 それにポイント制はすでに家電・住宅エコポイントで国民は十分親しんでおり、システムとしても実験済みだ。全く未知の政策というわけではない。

 さあ、どうだろうか。利点は多く欠点が少ないと思われるが、思わぬ隠れた落とし穴があるかもしれない。日本の再生のために単なる初夢とせず、ぜひ本気でひねくり回していただきたい。(おおいそ・まさよし 2010/12/21)


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